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国木田独歩は何から読む?『武蔵野』『牛肉と馬鈴薯』『春の鳥』の選び方

随筆の『武蔵野』、一晩の議論で進む『牛肉と馬鈴薯』、回想の語りで進む『春の鳥』を、文章の種類と構成で比べる国木田独歩入門。一回で読み切れる短い三作から最初の一篇を選び、結末に触れずに冒頭と読みどころを紹介して、青空文庫の本文と図書カードへ案内します。

国木田独歩の名前は、『武蔵野』という題とともに覚えている方が多いと思います。ただ、『武蔵野』は小説ではなく、雑木林を歩いた記録のような文章です。小説を読むつもりで開くと、何を追えばいいのか分からなくなることがあります。

独歩の作品はどれも短く、青空文庫で公開されているファイルも一回か二回で読み切れる長さです。この記事では、随筆の『武蔵野』、一晩の議論で進む『牛肉と馬鈴薯』、回想の語りで進む『春の鳥』を取り上げ、文章の種類の違いから最初の一篇を選びます。

紹介は冒頭と構成までにとどめ、結末には触れません。三作とも新字新仮名のファイルなので、仮名遣いで迷うことはありません。123

文章の種類で、最初の一篇を選ぶ

読みたいもの最初の候補文章の種類構成
風景を歩く文章武蔵野随筆一から九の節
人が集まって話す場面牛肉と馬鈴薯小説。会話が中心区切りなし。一場面
一人の語り手が思い出を話す春の鳥小説。回想一から四の節

以下の順番は編集上の提案で、発表順や評価の順位ではありません。どれから読んでも、他の二篇の読み方が変わるわけではありません。

1. 『武蔵野』地図の一行から、林の中へ

書き出しは、文政年間に作られた地図に「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」と書いてあった、という回想です。語り手の「自分」は、昔の武蔵野の跡を見たいと思いながら、今の武蔵野にも美しさがあると考え、秋から冬にかけて見て感じたことを書くと宣言します。1

全体は一から九までの節に分かれています。節ごとに話題が移り、日記の抜き書き、林の中を歩いた体験、武蔵野の範囲についての考えなどが続きます。筋はありませんから、一節ずつ別の文章として読んで構いません。読みどころは、目に見えるものと、耳に聞こえるものを、語り手がどう分けて書いているかです。木の葉の音、鳥の声、遠くの物音。風景の文章でありながら、音の記述が多いことに気づくはずです。

今の東京西部の地名が出てきますが、場所を知らなくても読めます。むしろ、知っている土地の名が思いがけない姿で出てくることを楽しむ文章です。土地を歩く文章が好きな方は、青空文庫で読む旅の文章や青空文庫で読む風景と日常で、他の作家の作品と並べて読むこともできます。

『武蔵野』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

2. 『牛肉と馬鈴薯』一晩の議論を、外から聞く

芝区桜田本郷町のお堀端に、明治倶楽部という洋風の建物がありました。ある冬の夜、めったに人の集まらない二階の食堂に灯りがともり、笑い声が外へ漏れています。そこへ、外套の襟を立てた一人の男が闇の中から現れ、手荒く呼鈴を押す。物語はこの場面から始まります。2

集まった男たちは、理想と実際は一致するのか、一致しないならどちらに従うのかを話しています。理想を食べられない馬鈴薯に、実際をビフテキにたとえた冗談から、「牛肉党」「馬鈴薯党」という言葉が飛び交います。遅れて来た岡本という男が、やがて自分の考えを話す番になります。

節の区切りがなく、一場面で終わる作品です。会話が多いので、誰が話しているかを確かめながら読んでください。登場人物は一人ずつ、頬髭や眼の様子など外見の短い描写で紹介されますから、名前より見た目で覚えるほうが追いやすいかもしれません。議論の内容を要約するより、冗談と本気が入れ替わる瞬間に注意すると、この作品の調子が分かります。

議論小説という言い方で身構える必要はありません。酒が入った男たちの話を、隣の席から聞いているつもりで読む作品です。

『牛肉と馬鈴薯』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

3. 『春の鳥』ですます調で語られる、ある地方の記憶

「今より六七年前、私はある地方に英語と数学の教師をしていたことがございます」。語り手の「私」は、丁寧なですます調で、かつて暮らした町の思い出を話し始めます。町には城山と呼ばれる山があり、頂上の城跡には石垣に蔦がからみ、私は散歩がてらよくそこへ登りました。3

一から四までの節に分かれ、短い作品です。ある秋の日曜に、城跡で枯れ枝を拾う子どもたちと出会う場面から、六蔵という少年との関わりが語られます。『牛肉と馬鈴薯』の騒がしい会話とは対照的に、語り手は一人で、聞き手に向かって静かに話す文章です。

読むときは、語り手がなぜこの話を今になって語るのか、という問いを持ってみてください。「ございます」「ました」という言い方の丁寧さは、相手への礼儀であると同時に、思い出との距離の取り方でもあります。風景の描写は『武蔵野』と同じ作者の手によるもので、城山の林や、野分の吹く秋空の書き方に、同じ目を感じられます。

短い作品を集めて読みたい方は、青空文庫で読む短編小説も参考にしてください。

『春の鳥』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

読む前に知っておきたい内容

『春の鳥』の六蔵は、本文で「白痴」と記される知的障害のある少年です。この語は作品が書かれた当時の言い方で、本文中に繰り返し出てきます。また、この作品は子どもをめぐる重い出来事を含み、明るい結末ではありません。『牛肉と馬鈴薯』は酒の席の議論で、人物が酔っていく場面があります。『武蔵野』には、注意が必要な題材はありません。

選んだ作品をEPUBで読む

本文リンクでまず冒頭を試し、続きを普段の読書環境で読みたくなったら図書カードからテキストZIPを入手します。青空→EPUBで変換し、生成されたEPUBをBlueReaderへアップロードしてください。サーバーでの解析が終わると本棚から開けます。同じアカウントなら、別の端末からも続きを読めます。4

操作の手順は青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法にまとめています。三作とも短いので、一つのEPUBにまとめず、作品ごとに変換して本棚に並べるほうが、読み終えたものが分かりやすくなります。

独歩と同じ時期の作家を続けて読みたい方は、森鴎外は何から読む?と島崎藤村は何から読む?で、それぞれ最初の一冊を選んでいます。藤村の『千曲川のスケッチ』と独歩の『武蔵野』は、どちらも土地を歩いた人の文章で、並べて読むと書き方の違いがよく分かります。


Footnotes

  1. 国木田独歩『武蔵野』、青空文庫。本文、図書カード No.329。新字新仮名。冒頭の文と一から九の節構成の確認に参照。 ↩ ↩2

  2. 国木田独歩『牛肉と馬鈴薯』、青空文庫。本文、図書カード No.323。新字新仮名。底本は新潮文庫『牛肉と馬鈴薯・酒中日記』。冒頭の場面と人物の確認に参照。 ↩ ↩2

  3. 国木田独歩『春の鳥』、青空文庫。本文、図書カード No.1057。新字新仮名。冒頭の語りと一から四の節構成の確認に参照。 ↩ ↩2

  4. BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩

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