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EPUB READING GUIDE

島崎藤村は何から読む?『破戒』『若菜集』『千曲川のスケッチ』の選び方

小説『破戒』、詩集『若菜集』、随筆『千曲川のスケッチ』を、文章の種類と青空文庫ファイルの仮名遣いで比べる島崎藤村入門。新字旧仮名と新字新仮名の違いを先に整理し、『夜明け前』の前に読む一冊を結末に触れずに選び、青空文庫の本文と図書カードへ案内します。

島崎藤村は、詩人として知られ、小説家としても知られています。「初恋」の一節を覚えている人もいれば、『夜明け前』という長い歴史小説の題名だけ知っている人もいるでしょう。入口が複数あるぶん、どこから手を付けるか迷いやすい作家です。

この記事では、小説『破戒』、詩集『若菜集』、随筆『千曲川のスケッチ』の三つを取り上げます。文章の種類が違う三作なので、好みの読み方から選べます。長編『夜明け前』は幕末を、宿場町から読む『夜明け前』の読書ガイドで別に扱っているため、ここでは触れません。

紹介は冒頭と構成までにとどめ、物語の結末には触れません。青空文庫のファイルの仮名遣いが作品ごとに違うので、その点も先に整理します。

文章の種類と仮名遣いで選ぶ

読みたいもの最初の候補文章の種類青空文庫の表記
人物を追う長い物語破戒小説。二十三章新字旧仮名
短い単位で言葉の響きを味わう若菜集詩集。四部構成新字旧仮名
土地と暮らしの観察千曲川のスケッチ随筆。その一からその十二新字新仮名

『破戒』と『若菜集』は新字旧仮名のファイルです。漢字は現在の字体ですが、「思ひ立つて」「ゐる」のような旧仮名遣いで書かれています。『破戒』には新字新仮名のファイルがありません。旧仮名を初めて読む方は、まず『千曲川のスケッチ』で藤村の文章の調子に慣れ、それから『破戒』へ進む順番も考えられます。123

旧仮名の読み方で迷ったら、青空文庫の「新字新仮名」「旧字旧仮名」とはを参照してください。以下の順番は編集上の提案で、発表順や評価の順位ではありません。

1. 『破戒』飯山の寺に下宿する小学校教師

信州飯山の蓮華寺。寺が兼ねている下宿に、小学校教師の瀬川丑松が急に宿を移してきます。二階の角の部屋の窓からは、銀杏の木の向こうに飯山の町と、自分が勤める小学校の白い建物が見える。物語はこの引っ越しの理由を、少しずつ明かしながら始まります。1

本文の前には、函館の秦慶治と信濃の神津猛という二人の恩人へ捧げる短い献辞があります。全体は第壱章から第弐拾参章まで二十三の章に分かれ、各章はさらに(一)(二)という小さな節に区切られています。一つの節は長くないので、節ごとに読み進めれば、旧仮名の文章でも息が切れません。

丑松が何を隠しているのかは、冒頭の章のうちに本文が示します。読者が追うのは、秘密そのものより、秘密を抱えた人物が同僚や生徒とどう向き合うかです。丑松が町の本屋で猪子蓮太郎という著者の名を見て胸が高鳴る場面があります。この人物への思いがどう変わっていくかを追うと、長い作品の背骨が見えてきます。

旧仮名に慣れていない方は、最初の数節を声に出さずに目で追い、読めない語は飛ばして進んでみてください。会話の多い場面では、現代の小説と大きく違わない速さで読めるはずです。

『破戒』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

2. 『若菜集』「初恋」の前後も読む

詩集は、全文がひらがなで書かれた短い序詩から始まります。歌を一房の葡萄にたとえ、まだ若くて味も色も浅いと述べる詩です。続いて「一 秋の思」「二 六人の処女」「三 生のあけぼの」「四 深林の逍遙、其他」の四部に分かれ、それぞれに題のついた詩が並びます。2

よく知られた「初恋」は第一部「秋の思」の中にあります。「まだあげ初めし前髪の」の一行だけで知っている方は、まずその詩を最初から最後まで読み、次に同じ部の「秋」から順に読んでみてください。一篇ずつが短いので、一日に数篇でも読書になります。

詩は七音と五音を基本にした定型で、旧仮名で書かれています。意味を取ることより、行の切れ目で息をつき、音の繰り返しを追うほうが入りやすい文章です。「秋は来ぬ」という一行が何度も戻ってくる「秋」のように、繰り返しの構造を持つ詩を見つけると、他の詩の読み方も分かってきます。

近代詩を初めて読む方には、青空文庫で読む詩の入門も参考になります。詩集を頭から順に読む必要はなく、題を見て気になった一篇から開いて構いません。

『若菜集』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

3. 『千曲川のスケッチ』小諸の七年を、短い文章で

序文は、「樹さん」と呼びかける手紙の形で書かれています。著者は信州小諸の学校で七年を過ごし、その山上生活の記念をまとめたのがこの書だと述べます。都会の空気から抜け出して、もっと自分を新鮮に、簡素にしたい。そう考えて山国へ行った人の記録です。序の末尾には大正元年冬の日付があります。3

本文は「その一」から「その十二」までに分かれ、それぞれの中に「学生の家」「鉄砲虫」「烏帽子山麓の牧場」といった短い題の文章が並びます。一篇は数分で読める長さです。農家の子どもが通う学校、養蚕で忙しい季節、城址の桜が一度に咲いて一度に散る春。土地の暮らしが、教師として住んだ人の目で描かれます。

三作の中では一番読みやすい新字新仮名のファイルで、文章も平易です。小説の筋を追うのではなく、一つの土地を季節ごとに眺める読書になります。序文には、この地方での印象が『破戒』の土台になったという著者自身の言葉もあり、『破戒』を読んだあとに戻ってくる読み方もできます。

風景や暮らしの描写を楽しむ読書については、青空文庫で読む風景と日常でも他の作品を紹介しています。

『千曲川のスケッチ』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

読む前に知っておきたい内容

『破戒』は、被差別部落に生まれた主人公が出自を隠して生きる物語です。本文には「穢多」「新平民」など、当時の差別的な呼称がそのまま繰り返し出てきます。作品はこの差別を主題として描いていますが、言葉そのものに触れたくない方は、先に別の作品を選んでください。また、人物の死や、周囲からの排斥が描かれる場面があります。

『若菜集』と『千曲川のスケッチ』には、そうした重い題材はほとんどありません。『千曲川のスケッチ』には、農村の暮らしの中での生き物の扱いや、貧しさの描写が含まれます。

選んだ作品をEPUBで読む

本文リンクでまず冒頭を試し、続きを普段の読書環境で読みたくなったら図書カードからテキストZIPを入手します。青空→EPUBで変換し、生成されたEPUBをBlueReaderへアップロードしてください。サーバーでの解析が終わると本棚から開けます。同じアカウントなら、別の端末からも続きを読めます。4

操作の手順は青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法にまとめています。『破戒』や『千曲川のスケッチ』のように区切りの多い作品は、EPUBにすると目次から読んだ場所へ戻りやすくなります。

同じ時期の作家を続けて読みたい方は、森鴎外は何から読む?で、歴史小説と現代小説の両方から入口を選んでいます。藤村の口語と鴎外の口語を並べて読むと、同じ時代の文章の幅が分かります。


Footnotes

  1. 島崎藤村『破戒』、青空文庫。本文、図書カード No.1502。新字旧仮名。献辞、章立て(第壱章から第弐拾参章)、冒頭の場面、初出(緑蔭叢書第壱編、1906年、自費出版)の確認に参照。 ↩ ↩2

  2. 島崎藤村『若菜集』、青空文庫。本文、図書カード No.1508。新字旧仮名。底本は新潮文庫『藤村詩集』。序詩と四部の構成の確認に参照。 ↩ ↩2

  3. 島崎藤村『千曲川のスケッチ』、青空文庫。本文、図書カード No.1503。新字新仮名。序文と「その一」から「その十二」の構成の確認に参照。 ↩ ↩2

  4. BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩

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