江戸川乱歩と聞いて、不気味な短編を思い浮かべる人もいれば、明智小五郎や少年探偵団を思い浮かべる人もいるでしょう。どちらから入ればいいのか迷うなら、まずは読みたい面白さで選んでみてください。
この記事では、不穏な語りを味わう『人間椅子』、推理を楽しむ『D坂の殺人事件』『心理試験』、冒険を追う『怪人二十面相』『少年探偵団』の5作品を紹介します。12345
犯人の正体や仕掛け、結末は明かさず、物語の入り口と読み方のヒントに絞りました。5作品を順番に読む必要はありません。気になる一作の冒頭から開いてください。
不気味さ・謎解き・冒険。どれを読みたい?
最初の一作を決めるための比較で、作品の優劣をつけるものではありません。前半の3作品は短編、後半の2作品は章を追って楽しむ少年向けの冒険物語です。12345
| 求める面白さ | 候補 | 入り口にあるもの |
|---|---|---|
| 奇妙な語りに、じわじわ引き込まれたい | 『人間椅子』 | 作家に届く、一通の長い手紙 |
| 手がかりを見ながら考えたい | 『D坂の殺人事件』 | カフェから眺めていた古本屋の異変 |
| 隠す側と調べる側の駆け引きを読みたい | 『心理試験』 | 周到な計画と、人の心を調べる試み |
| 怪盗と探偵の対決を楽しみたい | 『怪人二十面相』 | 大胆な予告状と、変装する怪盗 |
| 仲間と力を合わせる冒険を読みたい | 『少年探偵団』 | 正体の分からない怪人と、小林少年たち |
短編を一つ試したいなら、気になる題材のものを。長めの物語にしばらく付き合いたいなら、『怪人二十面相』から始めてみてください。
1. 『人間椅子』見慣れたものが、少し違って見えてくる
作家の佳子のもとには、読者の手紙や原稿が届きます。ある日、彼女が読み始めたのは、椅子を作る職人からの長い告白でした。丁寧な呼びかけで始まった文章が、次第に妙な近さを帯びてきます。1
読みどころは手紙の内容に加えて、それを読む佳子のいる場所と、語られる出来事との距離です。なぜこの相手に、こんな話を聞かせるのか。その疑問を持って読むと、一方的な手紙という形式そのものが気になってきます。
手がかりを整理して答えを当てるより、落ち着かない感覚を味わいたい方に向いています。
読む前のひとこと:身体の近さや執着を思わせる、不快さを含んだ話です。仕掛けを説明する紹介文を先に読みすぎず、まず手紙の始まりからどうぞ。
2. 『D坂の殺人事件』見えていることと、思い込んだことを分ける
蒸し暑い晩、語り手の「私」はカフェで冷たいコーヒーを飲みながら、向かいの古本屋を眺めています。そこへ知り合いの明智小五郎がやって来ます。二人が見つめていた店で、やがて異変が起こります。2
明智の名前しか知らない方は、彼がどう物を見て、どう話すのかをここで確かめられます。大掛かりな舞台ではなく、道路を挟んだ店の様子から話が動き始めます。
読むときは、「本文に書かれていた事実」と「自分がそうだと思ったこと」を分けてみてください。同じものを見ていても、同じ考えに行き着くとは限りません。その違いが読みどころです。
読む前のひとこと:殺人や性的な要素を含む、大人向けの話です。明智小五郎が出るからといって、少年向けの冒険物語と同じ雰囲気だとは考えずに選んでください。
『D坂の殺人事件』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
3. 『心理試験』「隠し通せる」という自信のそばにある緊張
物語は、大学生の蕗屋清一郎が犯罪を計画する側から始まります。読者は計画した人物の考えを知ったうえで、その後の調べがどう進むかを見守ることになります。3
題名にある心理試験も、隠す側と調べる側の駆け引きに関わってきます。どんな言葉を選び、どんな反応を見せるのか。大きな行動より、小さな受け答えに注目して読みたい方に向いています。
自信たっぷりの説明を、読者までそのまま信じてよいのか。そう疑いながら読むと、人物の落ち着いた様子にも緊張が走ります。
読む前のひとこと:読者が最初から知っていることも、物語の楽しみの一部です。「犯人を当てる話」だけを期待せず、どう調べが進むかに注目してください。決め手になる仕掛けは、ここでは紹介しません。
4. 『怪人二十面相』予告状から始まる、怪盗との対決
世間を騒がせる二十面相は、変装にたけた正体不明の怪盗。狙った品物について、前もって予告状を送ってきます。その相手となるのが明智小五郎と、少年助手の小林芳雄です。4
誰を信用してよいのか、予告された盗みを防げるのか。次の展開へ気持ちを引っ張られながら、章ごとに読んでいきたい作品です。『人間椅子』のような告白の不気味さとは、違う読み味を試せます。
小林少年がどんな場面で動くかにも注目してください。大人の解決を待つだけではない、少年の行動が物語を動かします。
読む前のひとこと:少年向けに書かれた作品ですが、危険な場面や緊張する展開はあります。短編一つを読む気分より、少しずつ続きを楽しみたい日にどうぞ。
『怪人二十面相』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
5. 『少年探偵団』一人の探偵から、仲間のいる冒険へ
町に広がるのは、暗闇に現れる不気味な存在のうわさ。正体をはっきり見た人はいないのに、話だけが大きくなっていきます。その相手に立ち向かうのが、小林少年を団長とする少年探偵団です。5
読みどころは明智一人の推理にとどまりません。少年たちが何を知り、どう動こうとするか。仲間のいる冒険として読むと、『怪人二十面相』から関心を広げられます。
冒頭のうわさを読んで想像したものと、そのあと実際に描かれるものはどうつながるのか。正体を先に調べず、怖さと好奇心を両方抱えたまま読み進めてください。
読む前のひとこと:ここで紹介する『少年探偵団』は、シリーズ全体の呼び名ではなく、同じ題名の一作品です。『怪人二十面相』が気に入ったら、続く候補としてどうぞ。
『少年探偵団』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
読む順番に迷ったら
謎解きの入り口なら、『D坂の殺人事件』から『心理試験』へ。見えている情報から考える読み方と、犯罪を計画する側の考えを知りながら読む読み方を比べられます。この二作に決まった読書順はありません。
不穏な語りを試すなら、『人間椅子』を一作。 ほかの4作品を先に読まなくても楽しめます。
少年たちの冒険を続けたいなら、『怪人二十面相』から『少年探偵団』へ。図書カードの初出では、前者が1936年、後者が1937年に「少年倶楽部」へ掲載されているので、発表順どおりの読み方です。6
なお、大人向けの短編と少年向けの作品では、描写や雰囲気が異なります。子どもと読む本を探している場合も、作者名だけで選ばず、まず大人が本文を確認してください。古い語句や、現在では不適切とされる表現について注意書きのある図書カードもあります。7
選ぶ参考にしたアクセスランキング
今回の5作品は、青空文庫の2022年通年・テキスト版アクセスランキングに掲載されています。以下は当時の公表順位で、この記事のおすすめ順ではありません。8
| 作品 | 2022年テキスト版の掲載順位 |
|---|---|
| 人間椅子 | 12位 |
| D坂の殺人事件 | 21位 |
| 心理試験 | 49位 |
| 怪人二十面相 | 15位 |
| 少年探偵団 | 38位 |
対象期間は2022年1月1日〜12月31日です。作品ファイルへのアクセスであり、現在の人気順、読了人数、検索回数を示すものではありません。青空文庫は、同じIPアドレスから同じファイルへのアクセスを24時間ごとに1回と数えると説明しています。9
ランキングは選書の参考に使い、読みどころと読み順は本文をもとに編集しています。青空文庫による公式の「おすすめ5作品」ではありません。
気になった作品を、青空文庫で読む・EPUBで読む
各紹介の「青空文庫で読む」から、ブラウザで本文を開けます。まず語り口を確かめたいだけなら、変換や会員登録は必要ありません。
リンク先の5作品は、新字新仮名の版です。図書カードでは、底本、初出、文字遣い、ルビありテキストZIPなどの提供ファイルを確認できます。7
章を少しずつ読む作品を、PCとスマートフォンで続けたい場合は、テキストZIPを青空→EPUBで変換し、生成したEPUBをBlueReaderへアップロードしてください。サーバーでの解析後に本棚から開き、同じアカウントで続きを読めます。 元のZIPと変換後のEPUBは、手元にも残しておいてください。10
→ 青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法
乱歩以外も含めて短編を探したい方には、青空文庫で最初に読みたい短編7選もあります。
有名な順に全部読むのではなく、今日は不気味な話を読みたいのか、謎を考えたいのか、冒険を楽しみたいのか。その日の気分で、最初の一作を選んでください。
Footnotes
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江戸川乱歩『人間椅子』、青空文庫。佳子が届いた手紙を読み始める冒頭と、職人の語りを参照。仕掛けと結末は紹介していません。 ↩ ↩2 ↩3
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江戸川乱歩『D坂の殺人事件』、青空文庫。「(上)事実」のカフェ、古本屋、明智との会話などを参照。犯人と推理の決め手は紹介していません。 ↩ ↩2 ↩3
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江戸川乱歩『心理試験』、青空文庫。蕗屋の計画から始まる構成と心理試験をめぐる記述を参照。冒頭で示される設定と、終盤の解決は区別しています。 ↩ ↩2 ↩3
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江戸川乱歩『怪人二十面相』、青空文庫。「はしがき」「鉄のわな」など、怪盗の予告、明智、小林少年を紹介する部分を参照。 ↩ ↩2 ↩3
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青空文庫の図書カード:怪人二十面相(No.57228)、少年探偵団(No.56669)。それぞれの初出を確認。この記事はシリーズ全作の刊行順一覧ではありません。 ↩
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青空文庫の図書カード:人間椅子(No.56648)、D坂の殺人事件(No.56650)、心理試験(No.56646)、怪人二十面相(No.57228)、少年探偵団(No.56669)。文字遣い、提供形式、初出、注意書きを確認。新字新仮名は現代語訳という意味ではありません。 ↩ ↩2
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青空文庫「テキスト版アクセスランキング(2022年通年)」。公表された作品名と順位を参照。同名作品や別版のアクセス数を合算していません。 ↩
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BlueReader「青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法」。変換先、EPUB追加、サーバー解析、端末間の読書位置同期については既存ガイドに沿っています。 ↩