山本周五郎を読んでみたいけれど、作品が多くて決められない。時代小説だから、武士の話を読むのだろうか。そんな方へ、暮らしや人との関わりから入れる四つの候補を紹介します。
『雨あがる』と『松の花』は一篇ずつ読めます。『赤ひげ診療譚』は連作の最初の一話から、『さぶ』は人物と長く付き合う作品として紹介します。四つとも同じ長さの短編ではありません。1234
いま使いたい読書時間と、気になる関係から
| 読みたい入口 | 作品 | ファイルを選ぶときの注意 |
|---|---|---|
| 夫妻が同じ人をどう見るか | 『雨あがる』 | 一つの作品として開く |
| 身近な人を知っているつもりでいないか | 『日本婦道記』の「松の花」 | 『日本婦道記』全体ではなく、この一篇 |
| 仕事の現場で、他人への見方が揺れる | 『赤ひげ診療譚』「狂女の話」 | 連作の01に当たる一話 |
| 友人同士の関係を、長く追いたい | 『さぶ』 | 短編集ではなく長い一つの物語 |
表は短編・連作・長編という作品の形で分けたもので、読了時間の比較ではありません。
1. 『雨あがる』同じ相手を、夫妻はどう見るか
長雨で宿に足止めされた三沢伊兵衛と妻のおたよ。金に余裕がない中、ほかの客とのやりとりが生まれます。伊兵衛がいらだちを抑えようとする場面でも、おたよの言葉は相手の事情へ視線を向けます。1
出来事の大きさより、夫妻が同じ人を見て何を感じるかに注目してください。相手をうるさい人だと思うことと、その人が孤立していると気づくことの間には、距離があります。
合戦の背景を覚えるより、宿の居心地や夫妻の会話から時代小説に入りたい方に向いています。
読む前のひとこと 「よい人が困っている」という一言で話をまとめず、助ける側と助けられる側の気持ちがいつも同じなのかを考えてください。
『雨あがる』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
2. 「松の花」近くにいる人について、何を知っているか
『日本婦道記』に含まれる一篇です。冒頭では、退いた後も仕事をしている佐野藤右衛門と、妻のやす女が描かれます。夫が妻をどう理解しているかに注目すると、身近な人を本当に知っているのかという問いが浮かびます。2
題名やシリーズ名から、登場人物の役割を先に決めつけないでください。誰が誰のことを説明しているのか、本人の声はどこにあるのかを分けて読んでください。
作品の背景にある価値観を、今の夫婦や家族の規範として受け取る必要はありません。この関係の中で何が見え、何が見えていなかったかを考えます。
読む前のひとこと 病や死、配偶者との関係に触れる作品です。穏やかな家庭の話だけを求める日には、重さも含めて選んでください。
『日本婦道記 松の花』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
3. 『赤ひげ診療譚』最初の一話で、仕事の現場に入る
まず案内するのは、公開番号01の「狂女の話」です。長崎で学んで戻った保本登が小石川養生所へ来る場面から始まります。本人が思い描いていた進路と、目の前の職場との隔たりが読みどころです。3
患者や同僚への言葉をすべて正解として受け取らず、誰の見方なのかを確かめてください。来たばかりの人が何を知り、何をまだ知らないのか。そこが、職業をめぐる物語として読む手がかりになります。
一つの図書カードで連作全部が手に入るわけではありません。まず01を読みます。続けるときは、山本周五郎の公開作品一覧で『赤ひげ診療譚』の各番号を確認してください。
読む前のひとこと 題名や本文には、現在の医療で用いる言い方とは異なる表現があります。作中の呼称や病の説明は、現代の診断や医療の助言ではありません。
『赤ひげ診療譚 01 狂女の話』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
4. 『さぶ』二人の友人と、しばらく付き合う
冒頭には、泣きながら両国橋を渡るさぶと、追いついて声をかける栄二がいます。まずは二人の話し方、片方が言い出せないこと、それをもう片方がどう受け止めるかを追ってください。4
一度の短い読書で終わる短編ではなく、人間関係の変化を長く追う作品です。最初のやりとりで持った印象は、あとで変わってもかまいません。
友人という呼び方だけでは、何を期待し、何を誤解しているかまでは分かりません。相手に言ったことと、自分の中で考えたことを別々に読むと、会話の手触りが残りやすくなります。
読む前のひとこと この先の苦難や解決をまとめたあらすじを読むより、まず冒頭の二人に会ってください。読み終える速さより、人物への見方が変わる過程を楽しむ一作です。
短編から始めても、最初から長編でもよい
迷うなら、まず『雨あがる』の冒頭を開いて、夫妻の会話を読んでください。ただし、これは必ず守るべき順番ではありません。
医師という仕事が気になるなら『赤ひげ診療譚』、友人同士の物語に惹かれるなら『さぶ』から読み始められます。一作が好みに合わなくても、ほかの作品まで同じ読み味だとは限りません。
EPUBへ入れる範囲を間違えない
図書カードで本文を試したあと、EPUBで続けたければテキストZIPを青空→EPUBで変換します。BlueReaderに生成されたEPUBをアップロードし、サーバー解析後に開きます。5
その際、「松の花」は一篇、「狂女の話」は連作の一話です。ファイルを一つ入れても、『日本婦道記』や『赤ひげ診療譚』の全篇が本棚にそろうわけではありません。読んでいる範囲を確かめて追加してください。
武士か庶民かという区分だけでなく、夫妻、同僚、友人など、どんな関係を読みたいかで最初の一作を選んでください。
次の読書につながる記事
Footnotes
-
山本周五郎『雨あがる』、青空文庫。本文、図書カード No.57583。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2
-
山本周五郎『日本婦道記 松の花』、青空文庫。本文、図書カード No.57821。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2
-
山本周五郎『赤ひげ診療譚 01 狂女の話』、青空文庫。本文、図書カード No.57841。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2
-
山本周五郎『さぶ』、青空文庫。本文、図書カード No.57624。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2
-
BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩