歴史小説に興味はあるけれど、年号も武将の名前もあまり覚えていない。いきなり何巻もある作品を選んで、読み切れるだろうか。そんなときは、時代の知識より、好きな物語の形から選ぶと入りやすくなります。
合戦を追う物語だけが入口ではありません。一人の若者の旅、雨の宿での夫妻の会話、町の小さな異変から始まる事件もあります。この記事では、青空文庫で公開されている歴史小説・時代小説から、五つの入り方を紹介します。
並びは評価の順位ではありません。最初の一作を選ぶための案内です。まず冒頭を読み、気になる声や場面を見つけてください。
読みたい面白さから選ぶ
| いま読みたいもの | 作品 | 最初に開くところ |
|---|---|---|
| 多くの人物が動く大きな物語 | 吉川英治『三国志』 | 「桃園の巻」。その前に「序」もある |
| 一人の若者の旅と、人との出会い | 吉川英治『宮本武蔵』 | 「地の巻」 |
| 人物の歩みを戦国の物語として追う | 吉川英治『新書太閤記』 | 「第一分冊」 |
| 一作品で、暮らしと人間関係を味わう | 山本周五郎『雨あがる』 | 独立した作品ファイル |
| 江戸の事件を一話ずつ読む | 岡本綺堂『半七捕物帳』 | まず「お文の魂」 |
長編の巻と、連作の一話は同じではありません。『半七捕物帳』を一話選ぶことと、『宮本武蔵』の途中の巻だけを選ぶことは分けて考えます。123
『三国志』まず一人の旅人についていく
ここで扱うのは、吉川英治が書いた小説『三国志』です。歴史書そのものや、ほかの作家の同名作品の案内ではありません。
「桃園の巻」の冒頭にいるのは、黄河のほとりで船を待つ劉備。彼が望んでいるのは、母のために茶を手に入れること。まずはその望みを追えば十分です。全人物の所属を先に暗記しなくても、一人が何をしようとしているかから物語に入れます。4
気になった人物が増えたら、「誰と出会ったか」「何を頼んだか」を一行ずつ残してみてください。結末までまとめた人物辞典を先に読むより、人物に出会う順番そのものを楽しめます。
『三国志 02 桃園の巻』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
巻の対応は吉川英治『三国志』の読む順番にまとめています。
『宮本武蔵』有名な剣豪になる前の場面から
「地の巻」は、戦いのあとに倒れている武蔵と又八から始まります。この時点では武蔵に「たけぞう」というルビが付き、二人は同じ村から来た若者として描かれます。完成した剣豪の技を見る物語ではありません。一人の若者がどう動き始めるかを読む物語です。5
二人が同じ出来事をどう受け止め、危険の中で何を選ぶかに注目してください。有名な対決の結末より、道中の会話や出会いを楽しみたい人に向いています。
冒頭から戦闘や死の描写があります。穏やかな読み物を探している日は、別の作品から始めてください。
『宮本武蔵 02 地の巻』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
『新書太閤記』人物の一生の年表とは別の読み方で
秀吉を中心に戦国の人物を描く吉川英治の小説です。第一分冊には作者の序があり、秀吉の最期までを描いたものではないことも説明されています。生涯をすべて追う伝記とは性格が違います。6
読むときは、登場人物が誰に会い、どんな仕事をし、相手に何を言うのかを追ってください。有名な名前に気を取られず、具体的なやりとりを追えば、人物が増えても関係をつかみやすくなります。
また、小説の描写と、歴史上の人物について確認できる事実は区別して読んでください。今回は小説を楽しむ案内で、史実の人物を評価する記事ではありません。
『新書太閤記 01 第一分冊』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
『雨あがる』長編の前に、夫妻のやりとりを読む
三沢伊兵衛と妻おたよは、長雨で宿に足止めされています。周囲の客との関わりの中で、夫と妻が同じ相手をどう見るかの違いも現れます。まず一作品で人間関係を読みたいときの候補です。3
武士の物語でも、注目するものを戦いや身分だけに限る必要はありません。金の乏しさ、泊まる場所、相手の言葉を受け止める余裕。暮らしの条件と人のふるまいを合わせて読むと、夫妻の違いが見えてきます。
『雨あがる』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
気に入ったら、山本周五郎の短い作品と連作・長編を選ぶ記事へ進めます。
『半七捕物帳』時代より先に、一つの謎を選ぶ
「お文の魂」は、聞き手が昔の話に耳を傾けるところから始まります。江戸の出来事が、語る人と聞く人のあいだで少しずつ形になっていく。その距離を楽しむ捕物帳です。2
難しい役職名を覚えるより、誰が何を見たと言っているかを追うほうが話をつかめます。うわさと目撃は同じなのか、相談に来た人は何を恐れているのか。探偵小説が好きなら、そうした疑問から入れます。
『半七捕物帳 お文の魂』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
小説として読むことと、歴史を調べることを分ける
登場人物の台詞が、そのまま実在人物の発言記録になるわけではありません。とはいえ、創作だから史実と無関係というわけでもありません。まず作品内の事情を追い、史実が気になった箇所はあとで別の資料に当たる。この順番なら物語の流れを止めずに済みます。
最初は「この人物は今何を望んでいるか」「誰と意見が違うか」だけでも十分です。時代背景を一度に詰め込むより、気になったところから調べるほうが長続きします。
一巻、一話を開いてから、続きを決める
青空文庫の図書カードでは本文をブラウザで開けます。長編を選んでも、すべての巻を一度に保存する必要はありません。最初の巻の一節から始めてください。
EPUBで続けたい場合は、対応するテキストZIPを青空→EPUBで変換し、生成したEPUBをBlueReaderにアップロードします。サーバー解析後に本棚から開けます。巻が別ファイルの作品では、どこまで読んだかを巻名でも確認し、元ファイルは手元にも残します。7
歴史の知識に自信がなくても、まずは群像劇、旅、暮らし、謎解きのうち、いま読みたいものから一作を選べます。
次の読書につながる記事
Footnotes
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青空文庫・吉川英治の公開作品一覧。巻の区分と公開中の項目を確認。 ↩
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岡本綺堂『半七捕物帳 お文の魂』、青空文庫。本文、図書カード No.1293。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2
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山本周五郎『雨あがる』、青空文庫。本文、図書カード No.57583。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2
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吉川英治『三国志 02 桃園の巻』、青空文庫。本文、図書カード No.52410。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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吉川英治『宮本武蔵 02 地の巻』、青空文庫。本文、図書カード No.52396。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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吉川英治『新書太閤記 01 第一分冊』、青空文庫。本文、図書カード No.56568。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩