暗い場所に何かがいる話も怖いけれど、もっと落ち着かないのは、丁寧に話している人の言葉を信じてよいのか分からなくなるときかもしれません。
青空文庫で読める5作品を、怪談という名前だけで一括りにせず、どんな不安を味わいたいかで分けて紹介します。犯人や仕掛け、結末は明かしません。日本語訳のある外国文学は、翻訳者まで確認した版へ案内します。
どんな怖さを読みたい?
下の分類は、作品本文をもとにした選び方で、怖さの順位ではありません。
| 気になる怖さ | 作品 | 読む前に知っておきたい描写 |
|---|---|---|
| 残された文章を読むうちに広がる不安 | 夢野久作『瓶詰地獄』1 | 孤立、死、性的な葛藤を含む |
| 美しい風景なのに、安心できない | 坂口安吾『桜の森の満開の下』2 | 殺人や身体に関する強い描写 |
| 見慣れた物が、妙に身近に感じられる | 江戸川乱歩『人間椅子』3 | 身体への執着、不快さを伴う告白 |
| 語り手の説明そのものが落ち着かない | ポー『黒猫』4 | 動物虐待、家庭内の暴力 |
| 冷たさと静けさの中に現れる怪異 | 小泉八雲『雪女』5 | 人の死、命を脅かされる場面 |
苦手な描写がある作品は、飛ばしてかまいません。なお、表の注意点ですべてを網羅しているわけではありません。
1. 『瓶詰地獄』届いた言葉を、どこまで信じるか
漂着した瓶と、その中の文書。『瓶詰地獄』では、誰かが経験を整理して語ってはくれません。読者は残された文書だけを頼りに、舞台や出来事を組み立てていきます。1
「正しい順番」は検索せず、まず掲載順に読んでください。そして、各文書を誰が誰に向けて書いたと受け取ったかを覚えておきます。読み終えてから冒頭へ戻る楽しみは、解説を読まずに取っておきたいところです。
書かれていることと同じくらい、説明されないまま残ることにも目を向けてください。大きな音や突然の出現より、読むこと自体が不安になる感覚を味わいたい日の一作です。
2. 『桜の森の満開の下』きれいな風景が、逃げ場をなくす
冒頭から、満開の桜の下が、にぎやかなお花見の場所とは違う空間として描かれます。山の中で暮らす男でさえ、その静けさには落ち着いていられません。2
読むときは、景色の美しさだけでなく、その中に立つ自分の足音や声を想像してみてください。花に囲まれていることが、安心より、周りから切り離される感覚につながっていきます。
題名の美しさにひかれて選ぶ場合は、暴力的な場面もあることに注意してください。花の描写を味わう穏やかな随筆を期待すると裏切られます。風景にも人物の行動にも、目をそらしたくなるものが混ざっています。
3. 『人間椅子』手紙を読む部屋まで、気になり始める
作家の佳子に届いた、職人からの長い告白。礼儀正しい呼びかけで始まる文章に、彼女は次第に引き込まれていきます。3
乱歩入門の記事では、奇妙な語りへの入口として紹介した作品です。今回は「距離」に注意して読んでください。手紙の中の出来事は、自分から十分に離れているのか。それを読んでいる部屋は、いつもの安全な場所なのか。そう問いながら読むと、同じ作品が別の顔を見せます。
どんな仕組みの椅子なのかを図で調べたり、最後の説明を先に読んだりするのは、読み終えてからにしてください。まずは佳子が封を切るところから。
4. 『黒猫』説明している人の、言い方に注目する
ここで紹介するのは、エドガー・アラン・ポーの作品を佐々木直次郎が訳した版です。語り手は自分の身に起きたことを話そうとして、かつて動物をかわいがっていた自分について説明します。4
出来事のメモと、語り手が自分をどう説明したかのメモを分けて取ると読みやすくなります。事実の報告に見える言葉に、弁解や言い換えが混ざっていないか。納得しかけた直後に、引っかかる箇所がきっと見つかります。
題名に猫とあっても、動物との心温まる話ではありません。動物への暴力が苦手な方は、別の作品を選んでください。
5. 『雪女』吹雪の中の小屋で、声を聞く
田部隆次訳の『雪女』を紹介します。木こりの茂作と巳之吉は、吹雪のために渡し場の小屋で夜を明かすことになります。外へ出られない寒い夜に、物語が動き始めます。5
怖い場面を読む前に、風の音、戸の様子、明かりの少なさを思い浮かべてみてください。場所の条件を丁寧に読んでおくと、その後の会話がぐっと近くに聞こえます。
筋を知っている方も、いつ何が約束され、その言葉を誰がどう受け止めるのかを本文で確かめてください。結末の要約より、声と沈黙に耳を澄ませる読み方が向いています。
怖い話は、答え合わせを急がなくてもよい
分からない部分があると、すぐ解説を探したくなります。けれど、何が事実か確かめられない落ち着かなさこそ、怖い話の味わいです。しばらくそのままにしておいてください。
読み終えたら、いちばん落ち着かなかった場面を一つだけ思い出してください。幽霊が出た場面だったのか、語り手の説明だったのか、誰かが黙った瞬間だったのか。次の作品は、その違いから選べます。
読みたい一作が決まったら
本文リンクから青空文庫でそのまま読めます。EPUBにしたい場合は、各図書カードのテキストZIPを青空→EPUBで変換し、生成したEPUBをBlueReaderへアップロードします。サーバーでの解析後に本棚から開きます。6
今回の『雪女』の図書カードで案内されているのは、ルビなしのテキストZIPです。どの作品にも「ルビあり」が用意されているとは限りません。元のZIPと変換後のEPUBを手元に保管し、本文表示を確認してください。5
乱歩をもう少し読みたくなった方は江戸川乱歩の5作品ガイドへ。怖いものから少し離れたい日は、食べ物のエッセイ5選から選んでください。
Footnotes
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夢野久作『瓶詰地獄』、青空文庫。図書カードNo.2381。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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坂口安吾『桜の森の満開の下』、青空文庫。図書カードNo.42618。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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江戸川乱歩『人間椅子』、青空文庫。図書カードNo.56648。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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エドガー・アラン・ポー/佐々木直次郎訳『黒猫』、青空文庫。図書カードNo.530。翻訳者、文字遣い、提供形式と冒頭を確認。 ↩ ↩2
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小泉八雲/田部隆次訳『雪女』、青空文庫。図書カードNo.50326。図書カードは新字新仮名、テキストファイル(ルビなし)。翻訳者・形式・冒頭を確認。 ↩ ↩2 ↩3
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BlueReader「青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法」。変換先は青空→EPUB、BlueReaderはEPUBのアップロードとサーバー解析が必要。 ↩