登場人物や事件を追う余裕はないけれど、何か少し読みたい。そんな日には、食べ物についての文章を開いてみませんか。
今回は、青空文庫で公開されている北大路魯山人の5篇を選びました。複数の作家を比べるのではなく、一人の書き手が身近な食べ物をどんな言葉で語るかを楽しむ記事です。
豆腐やご飯について、そこまで言うのかと思うほど強いこだわりに出会います。全面的に賛成する必要はありません。「自分ならどう感じるだろう」と、食卓の記憶と並べて読んでみてください。
今、気になる食べ物から選ぶ
| 入口にしたいもの | 作品 | 読むときの着目点 |
|---|---|---|
| いつもの豆腐 | 『美味い豆腐の話』1 | 当たり前の食材を、どれほど細かく見るか |
| ご飯そのもの | 『お米の話』2 | 脇役にされがちなものを中心に置く語り |
| 気取らない一膳 | 『お茶漬けの味』3 | 価格や豪華さと、食べたい気持ちの違い |
| 噛んだときの感覚 | 『数の子は音を食うもの』4 | 舌以外の感覚を、味の言葉にすること |
| 食材と作り手の関係 | 『材料か料理か』5 | 技術への期待を問い直す、強い主張 |
料理の手順を再現するための記事ではありません。作品に出てくる保存・調理・健康の話は、現在の調理法や栄養の助言としてではなく、文章として楽しんでください。
1. 『美味い豆腐の話』「どれも同じ」を、いったんやめてみる
魯山人は豆腐の味について、水や土地、作り手の違いに目を向けます。京都の豆腐に触れながらも、京都ならどこも同じように美味いという話にはしません。1
評判の店を探す案内として読むと、この文章の面白さを取りこぼします。「この地域だから美味しい」で済ませず、目の前の一丁について語ろうとする。その姿勢に注目してください。
次に豆腐を食べるとき、舌触り、香り、温度のどれから意識するでしょうか。正しい感想を探すより、自分が普段どれほど注意を向けていたかに気づく。それが読後の小さな楽しみです。
2. 『お米の話』おかずではなく、ご飯を主役にする
おかずを選ぶことに夢中になり、ご飯のことは後回しにしていないか。『お米の話』では、そう問いかけられるような、米や炊き方への強い関心が語られます。2
面白いのは、値の張る珍しいものではなく、毎日食べるものだからこそ語る価値がある、という視点です。自分の身の回りの食べ物にも当てはめながら読めます。
文章の調子が強すぎると感じたら、主張に同意するかどうかと、着目点が面白いかどうかは分けて考えてください。「今日のご飯で、自分は何を美味しいと感じたか」という一問だけ持ち帰っても、読書としては十分です。
3. 『お茶漬けの味』豪華な食事のあとで、欲しくなるもの
お茶漬けという身近な食べ物から、料理の高価さと、食べる人が求める味との関係へ話が広がります。値段や手間だけで料理の価値は決まらない、という語りです。3
読む前に「疲れた日に食べたくなるもの」を一つ思い浮かべると、書き手との距離が取りやすくなります。豪華なものへの期待と、今の自分が食べたいものは、いつも一致しているでしょうか。
値段を基準に文章を読んでしまいそうなときは、いったん食べる場面へ戻ってみてください。いつ、どんな気分で、誰が食べるのか。料理を品物として眺めるだけでは見えないものが見えてきます。
4. 『数の子は音を食うもの』「美味しい」以外の言葉を探す
題名がそのまま、読むときの入口になります。数の子を味わうことについて、噛む感触や音に注意を向けた一篇です。4
食べ物を説明するとき、甘い、しょっぱい、苦いだけでは足りないことがあります。口の中でどう崩れるか、どんな響きがするか。そこまで言葉にすると、同じものの感想でも変わってきます。
読み終えたら、きゅうりやパンなど身近な食べ物を一つ選び、「美味しい」を使わずに説明してみてください。表現の引き出しを増やしてくれる一作です。
5. 『材料か料理か』書き手と意見が違っても、読書は続けられる
材料と料理の技術のどちらを重く見るか。魯山人は、素材そのものを重視する立場から、料理についての考えを述べます。5
料理全般に通用する法則としてではなく、はっきりした立場を持つ人の意見として読むと向き合いやすくなります。どこにはうなずけて、どこからは自分の経験と違うと感じるでしょうか。
「材料がよければ十分なのか」「手をかけることで生まれる美味しさはどう考えるか」。そんな問いを自分の側に残せば、反対したくなる文章にも読む楽しみがあります。5篇の最後に置いたのは、書き手に賛成して終わるより、自分の考えを持ち帰ってほしいからです。
一日に一篇、食卓の記憶と並べて読む
5篇を一度に読む必要はありません。昼に豆腐を食べたら『美味い豆腐の話』、ご飯を炊いたら『お米の話』という選び方で十分です。
読み終えたら、「好きだった言い方」か「反対したい意見」を一つ思い出してみてください。詳しい感想を書くより、書き手と一往復だけ言葉を交わすつもりで。
古い文章には、現在の感覚とは異なる表現や、根拠の説明が十分でない断定もあります。書き手の勢いを味わうことと、その主張を現在の事実として受け取ることは分けてください。
青空文庫で読む・自分の本棚へ持っていく
各本文リンクから、その場で読めます。作品をEPUBとしてまとめて読みたいときは、図書カードのテキストZIPを青空→EPUBで変換し、生成されたEPUBをBlueReaderへアップロードします。BlueReaderはサーバーで解析したあとに読み始める方式です。6
物語へ戻りたくなったら、青空文庫で最初に読みたい短編7選もどうぞ。読みかけの長編が気になっている方には、途中で止まった本との付き合い方を別の記事にまとめています。
Footnotes
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北大路魯山人『美味い豆腐の話』、青空文庫。図書カードNo.49961。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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北大路魯山人『お米の話』、青空文庫。図書カードNo.49963。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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北大路魯山人『お茶漬けの味』、青空文庫。図書カードNo.54961。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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北大路魯山人『数の子は音を食うもの』、青空文庫。図書カードNo.54948。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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北大路魯山人『材料か料理か』、青空文庫。図書カードNo.49977。冒頭と本文を参照。紹介では結末を明かしていません。 ↩ ↩2
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BlueReader「青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法」。変換には青空→EPUBを使用し、BlueReaderではEPUBのアップロード後にサーバー解析が行われます。 ↩