猫の小説といっても、日なたで眠る猫の話ばかりではありません。人間を観察する猫、事務所で働く猫、裁判をする山猫、町全体の見え方を変えてしまう猫。青空文庫には、猫がそれぞれ違う役目で現れる作品があります。
ここでは4作品を、猫のかわいさより、猫がいることで世界がどう見えるかに注目して紹介します。『吾輩は猫である』以外の3作は、長い一冊に取りかかる前に別の調子を試したいときにも向いています。
猫に何を見せてもらう?
| 作品 | 猫のいる場所 | 読み味 |
|---|---|---|
| 吾輩は猫である | 教師の家と、その周囲 | 人間への観察と皮肉 |
| 猫の事務所 | 歴史や地理を調べる職場 | 働く集団の関係 |
| どんぐりと山猫 | 山の裁判 | 会話のおかしさと判断の難しさ |
| 猫町 | 旅と幻の境目 | 見慣れた場所への不安 |
穏やかな動物小説を探しているなら、各作品の紹介で雰囲気を確かめてから選んでください。
1. 『吾輩は猫である』人間の理屈を外から眺める
夏目漱石の小説では、名前のない猫が語り手となり、教師の家で暮らしながら人間を眺めます。人間たちがまじめに話していることも、猫の語りを通すと少し違って見えます。1
読みどころは猫の行動より、猫が見た人間のほうです。そこを楽しめれば、長い会話や寄り道も退屈な待ち時間ではなくなります。
猫の判断を作者の最終結論として受け取る必要はありません。自信ありげに語る猫にも、思い込みや見栄はないでしょうか。そう疑ってみると、観察する猫自身も面白く見えてきます。
選ぶ目安:人間の会話と自意識を、ゆっくり味わいたいとき。冒頭は有名ですが、作品全体はかなりの長さです。
『吾輩は猫である』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
2. 『猫の事務所』よく働くことと、認められること
宮沢賢治が描くのは、猫の歴史と地理を調べる事務所です。黒猫の事務長と四人の書記が働き、その中のかま猫は、体に付いた煤などを理由に周囲から嫌われています。2
机の配置や役職まで描かれているので、猫の世界なのにどこかで見た職場のように感じられます。誰が仕事をしているかと、誰が好意的に見られているかは同じなのか。周囲の評価が、実際の行動から離れていくところに注目してください。
明るい仕事の話ではなく、排除や誤解を扱う作品です。人間関係に疲れている日は、その点を承知のうえで選んでください。リンク先は新字旧仮名で、「ゐる」などの表記が残っています。
選ぶ目安:組織の中で人がどう見られるかを、少し距離を取って考えたいとき。
『猫の事務所』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
3. 『どんぐりと山猫』山猫の裁判を見に行く
一郎の家に山猫から届くのは、少し変わった文字と言い回しのはがきです。面倒な裁判があるので来てほしいという誘いに、一郎は胸を躍らせて山へ向かいます。3
楽しみは裁判の結論だけではありません。途中で出会う木や滝、きのこの声と、それに一郎がどう答えるか。山猫に会うまでの道のりにも、この世界の調子が表れています。
自分が一番だという言い分が並ぶとき、何を基準に決めればよいのでしょう。一つの尺度で並べようとするおかしさを味わいながら、結末の前に、自分なら何を尋ねるか考えてみてください。
選ぶ目安:不思議な場所を歩き、少しとぼけた会話を楽しみたいとき。
『どんぐりと山猫』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
4. 『猫町』猫がいることより、見える世界が怖い
萩原朔太郎の『猫町』には「散文詩風な小説」という副題があります。旅に新鮮さを感じなくなった語り手が、夢と現実の境目、見慣れた町の違う姿について語る作品です。4
日常に猫が一匹紛れ込むような話ではありません。「ここを知っている」という感覚は何でできているのか。景色を見る角度や意識が変わるだけで、同じ場所は別の場所になってしまうのか。その不安を文章でたどる作品です。
猫の場面を急いで探すより、冒頭で語られる旅への思いを読んでおくと、後の風景の見え方が変わります。薬物使用に触れる箇所や不穏な描写があるので、猫好きの子どもに気軽に勧められる作品ではありません。
選ぶ目安:夢のような文章や、説明しきれない景色を味わいたいとき。
「猫の本」でひとまとめにしない
4作品の猫は、人間への距離の取り方が違います。『吾輩は猫である』では見る側、『猫の事務所』では集団の中の一員、『どんぐりと山猫』では裁く側。『猫町』では、世界の見え方そのものが揺れます。
一作が好みに合わなくても、ほかの猫の話まで合わないとは限りません。会話から入りたいなら一郎の山道へ、人間関係を考えたいなら事務所へ。入口は好みで選んでください。
本文を開いて、相性を試す
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Footnotes
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夏目漱石『吾輩は猫である』、青空文庫。本文、図書カード No.789。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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宮沢賢治『猫の事務所』、青空文庫。本文、図書カード No.464。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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宮沢賢治『どんぐりと山猫』、青空文庫。本文、図書カード No.43752。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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萩原朔太郎『猫町』、青空文庫。本文、図書カード No.641。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩