名作と聞くと、姿勢を正して読まなければならない気がする。でも、気まずい会話や、本人だけが大まじめな失敗を笑いながら読んでもいいのです。
今回は太宰治と芥川竜之介から、笑いの種類が異なる5作品を選びました。明るく無害な話ばかりではありません。人を傷つける言葉、動物への乱暴な考え、死や身体に関わる場面も含まれるので、いまの気分に合うものを選んでください。結末や落ちは紹介せず、物語が動き始めるところを案内します。
今日は、どんな可笑しさを読みたい?
| 気になるもの | 作品 | 注目するところ |
|---|---|---|
| 言っていることと行動が合わない人 | 畜犬談 | 犬への恐怖を説明する「私」 |
| 断りにくい相手との会話 | 親友交歓 | 親しさを主張する側と迎える側の温度差 |
| 気にしていないふり | 鼻 | 外見以上に気になる他人の反応 |
| 大げさになっていく小さな願い | 芋粥 | 食べたいという思いと、願いが動き出す場面 |
| ありえないことへの事務的な対応 | 馬の脚 | 不条理な出来事を普通の口調で語る文章 |
並びは面白さの順位ではありません。入口を選ぶための表です。
1. 『畜犬談』犬が怖い「私」の理屈を聞く
語り手は、犬が怖いという話を驚くほど大がかりに展開します。ところが、怖いからこそ犬に気を遣い、その行動がまた犬との距離を近づけてしまう。強く言い切る言葉と実際の行動がずれていくところが可笑しい作品です。1
犬のかわいらしさを楽しむ話として読むより、自分の弱さを言い訳する人の声として聞くと面白くなります。断言した直後に言い訳が入り、立派な理屈のすぐそばに生活の小さな困りごとが現れます。
読むときは、「この人は本当に犬の話だけをしているのだろうか」と考えてみてください。語り手が自分をどう見せたいのかに気づくと、同じ文章の可笑しさが変わります。動物を傷つけようとする考えが語られるため、そこが苦手な日は別の作品へ。
2. 『親友交歓』親しいはずなのに、会話が苦しい
昔の知り合いが訪ねてくる。歓迎したい気持ちと、相手の遠慮のなさへの戸惑いが同時に生まれます。太宰の『親友交歓』は、互いに思い描く「親友」の関係が一致していないところに、会話の緊張を作ります。2
口に出した返事と、語り手が読者にだけ明かす本音を分けて追ってください。その場では言えないことが、あとから語る文章の中に積もっていきます。相手を笑うだけでなく、うまく断れない自分のことも思い出すかもしれません。
題名から爽やかな再会を期待すると、少し違う読み味です。人との距離が近すぎるときの居心地の悪さを、少し離れて眺められる日に向いています。
『親友交歓』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
3. 『鼻』本人の悩みと、周囲の楽しみは違う
長い鼻に悩む禅智内供は、その悩みを人に知られることも嫌がっています。外見を変えたいだけではなく、「気にしている人だと思われたくない」。この二重の気持ちが物語の入口です。3
周りの人が笑う場面で、読者まで笑う側に立つ必要はありません。なぜ他人の変化が気になるのか、相手が困っているときと望みをかなえそうなときで、態度はどう変わるのか。そうした問いが残る笑いです。
筋を知っている方は、内供が何に喜び、何を警戒しているかに注目して読み返すと発見があります。外見へのからかいが含まれることも、選ぶ前に知っておきたい点です。
4. 『芋粥』小さな願いを、大きな物語にする
周囲から軽く扱われがちな五位には、芋粥を思う存分食べたいという願いがあります。それは本人にとって、たかが食べ物の話ではありません。日々の暮らしの中で温めてきた、ひそかな楽しみです。4
面白いのは願いそのものより、それを人に知られたときの落ち着かなさです。人から好意を向けられても、ただ喜べるとは限らない。期待が膨らむほど、本人の気持ちは複雑になっていきます。
食欲の話から、人が何を支えに暮らしているかへ関心が移る作品です。リンク先は新字旧仮名の版です。仮名遣いに引っかかったら、一文ずつ意味のまとまりで区切って読むと進めます。
5. 『馬の脚』異常な出来事にも、日常は続く
平凡な会社員として紹介される忍野半三郎に、まったく平凡でない出来事が起こります。しかも、その処理に当たる人々は妙に事務的です。非常事態なのに、責任や手続きの話が先に進む。その温度差にブラックユーモアがあります。5
タイトルどおりの奇妙な身体をめぐる話ですが、読みどころは奇抜な設定だけではありません。周囲に変だと思われないように働き、家庭を保ち、日常を続けようとする切実さが重なります。
「自分だったら、まず何を心配するだろう」と考えてから、半三郎の行動を追ってみてください。死や身体の損傷を扱うため、軽い笑いだけを求めるときとは分けて選びたい一作です。
笑えなかった場面も、読書の手がかりになる
面白いと評判の作品でも、笑えなければそれでかまいません。「気まずい」「この人物が気の毒だ」と感じたなら、それがあなたの読み方です。同じ場面を可笑しいと感じる人とどこが違うのかを考えると、作品をもう一度開きたくなります。
初めは一作品で十分。語り手の言葉に勢いを感じたら太宰の二篇へ、人の自意識や不条理な設定が気になったら芥川の作品へ、と進めます。
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芥川竜之介の次の一作を選ぶ
Footnotes
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太宰治『畜犬談』、青空文庫。本文、図書カード No.246。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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太宰治『親友交歓』、青空文庫。本文、図書カード No.2271。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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芥川竜之介『鼻』、青空文庫。本文、図書カード No.42。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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芥川竜之介『芋粥』、青空文庫。本文、図書カード No.55。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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芥川竜之介『馬の脚』、青空文庫。本文、図書カード No.174。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩
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BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩