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EPUB READING GUIDE

田山花袋は何から読む?『蒲団』『田舎教師』『重右衛門の最後』の選び方

田山花袋を初めて読む方へ。『蒲団』『田舎教師』『重右衛門の最後』の冒頭の場面と章立て、語り手が人物からどれくらい距離を取るかを比べ、長さと気分から最初の一作を選べるように案内します。結末には触れず、青空文庫の本文と図書カード、EPUB化の手順へつなぎます。

田山花袋の名前は、文学史の「自然主義」の項目で見かけることが多い作家です。『蒲団』が当時の読者を驚かせた作品だと聞いて興味を持っても、どこが新しかったのか、今の読者にとって何が面白いのかは、説明を読むだけでは分かりにくいものです。

この記事では、青空文庫で公開されている『蒲団』『田舎教師』『重右衛門の最後』の三作を取り上げます。それぞれの冒頭がどう始まり、どんな単位で区切られ、語り手が人物からどれくらいの距離を取っているかを比べ、今の気分に近い一作を選べるようにします。結末や終盤の出来事には触れません。

三作とも、人物の内側を書くというより、人物を眺める位置をどこに置くかで性格が変わる作品です。同時代の作家と並べて読みたい方は、国木田独歩の入門や島崎藤村の入門もあわせてご覧ください。

三作の長さと入り方を比べる

読みたいもの最初の候補分量の目安はじめに注目すること
一人の男の内心を近くで追う中編蒲団全十一章語り手が主人公の考えをどこまで肯定しているか
季節が移る長い物語田舎教師全六十四章風景の描写と清三の気分の重なり方
誰かが語る形で聞く物語重右衛門の最後全十二節語り手が村の人をどう見ているか

分量は青空文庫の本文の章立てから数えたものです。『蒲団』と『田舎教師』は新字新仮名、『重右衛門の最後』は新字旧仮名で公開されています。123

1. 『蒲団』主人公の考えを、そのまま信じないで読む

小石川の坂を下りながら、三十六歳の文学者竹中時雄が考えごとをしている場面から始まります。妻と三人の子があり、昼は書籍会社の嘱託として地理書の編集を手伝う男です。考えている相手は、自分の家に住み込んで文学を学んでいた女弟子の横山芳子です。「これで自分と彼女との関係は一段落を告げた」と考えた直後に、「けれど」を二度繰り返して迷いが続きます。1

この作品は時雄のそばに寄り添って書かれています。何を見て、何を思い、どう自分を正当化するかが、一章ごとに細かく追われます。その一方で、文章は時雄の言い分を全部受け入れているわけではありません。たとえば冒頭で、時雄は芳子の手紙や眼の表情を一つずつ思い返しながら、彼女が自分を欺いたのか、それとも自分が機会を逃したのかと考えを揺らします。読んでいる側は、この揺れ方そのものに気づくことになります。

初めて読む方は、時雄が芳子について断定する箇所に印を付けながら進むと読みやすくなります。「女は確かに」「かの女は」と言い切る文と、その直前の迷いとを並べると、語り手の視点と時雄の視点がどこで重なり、どこで離れているかが見えてきます。師と門弟、既婚者と若い女性という関係のなかで、時雄が何を要求し、何を要求できないと考えているかも読む手がかりです。

初出は雑誌「新小説」の1907年9月号です。作者自身が後年に書いた短いエッセイ「『蒲団』を書いた頃」も青空文庫にあり、本編を読んだあとに作者の言い分を聞くという順番で読むと、作品との距離の取り方を考え直せます。4

『蒲団』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

2. 『田舎教師』季節と一緒に、ゆっくり進む

「四里の道は長かった」という一文から始まります。中学校を卒業した林清三が、埼玉県の羽生から、小学校の教員として赴任する村へ向かう春の日です。田圃にはげんげが咲き、垣から八重桜が散る道を、母親が徹夜で縫った羽織を着て車に乗る。この最初の数行で、作品が風景と人物の気分を重ねて書く小説であることが分かります。2

全六十四章の長編ですが、一章ごとの長さは短めで、場面の切り替わりもはっきりしています。中学時代の友人加藤郁治との会話、文学や恋についての議論、俸給で暮らす日々、清三が書く日記や歌や詩が、物語の進行に挟まれていきます。事件が次々に起きるのではなく、季節が一巡し、また一巡するなかで、清三の希望の形が少しずつ変わっていく作品です。

長いからと最初に身構える必要はありません。一日に数章ずつ、季節の区切りで休みながら読む方が、この作品には合っています。読むときは、風景の描写が出てきたら、その直前と直後に清三が何を考えていたかを確かめてみてください。景色が明るいのか沈んでいるのかが、彼の気分の説明になっていることに気づきます。

作者が自分の文章でこの作品の成り立ちを語った「『田舎教師』について」も青空文庫にあります。『東京の三十年』の一部で、本編を読み終えてから目を通すのに向いています。5

『田舎教師』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

3. 『重右衛門の最後』語り手の目を疑いながら聞く

五、六人が集まった席で、話題がロシアの小説家ツルゲーネフに移り、その場にいた「なにがし」という男が、「僕は一度猟夫手記の中にでもありさうな人物に田舎で邂逅して、非常に心を動かした事があつた」と語り出します。第二節からは、この男が自分の体験を一人称で話す形になります。十六歳で東京に出て、陸軍志願者のための小さな私立学校に通っていた頃に出会った二人の田舎出の学生のこと、やがてその一人の故郷である信州の村を訪ねたことへと話が進みます。重右衛門は、その村の人物です。3

題名に「最後」とある通り、結末の方向は最初から示されています。この作品で追うべきなのは、何が起きるかではなく、都会から来た語り手が村の人々をどう眺め、重右衛門という人物をどう理解しようとするかです。語り手は重右衛門の境遇を「不幸福」と呼び、その原因を生まれつきの身体や「愛情の過度」に求めて説明を重ねます。読む側は、その説明がどこまで本人の実感に届いているのかを疑いながら進めることになります。

ロシア文学の人物名を引き合いに出して語り始める冒頭は、語り手自身の立ち位置を表しています。文学で読んだ「農夫」を日本の村に探しに行く、という視線です。この視線に対して、村の出来事がどう応えるのかが、作品の軸になります。

本文は新字旧仮名で公開されています。「言つて」「為つた」のような表記に慣れていない方は、青空文庫の表記の違いを説明した記事を先に読むと、語りの声に集中しやすくなります。

『重右衛門の最後』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

三作に共通する読み方

三作とも、語り手が人物を眺める位置をはっきり持っています。『蒲団』では時雄の内側に寄り添い、『田舎教師』では清三の日常を外から長く追い、『重右衛門の最後』では都会の青年が村を見ます。どの作品でも、語り手が人物について説明を始めたときに、その説明を一度保留してみると、作品の別の面が見えてきます。

作品語り手の位置保留してみたい説明
蒲団時雄の内心に近い芳子の気持ちについての時雄の断定
田舎教師清三の日々を外から追う清三自身が書く日記や詩の自己評価
重右衛門の最後都会から来た青年の一人称重右衛門の境遇の原因についての語り手の推測

一作目が合わなかった場合でも、花袋全体への結論にはなりません。内心を追う文章が重く感じたら風景の多い『田舎教師』へ、長さがためらわれたら枠物語で聞ける『重右衛門の最後』へと選び直せます。

読む前に知っておきたい点

三作の図書カードには、今日からみれば不適切と受け取られる可能性のある表現が含まれる旨が記されています。『蒲団』は、妻子のある師が若い女弟子に執着する心理を、男性側の視点から詳しく描いた作品です。女性の描かれ方に当時の見方が表れている箇所があります。『重右衛門の最後』は、生まれつきの身体の特徴をめぐる差別的な言葉や、村での暴力と火事の場面を含みます。『田舎教師』は、貧しさと病を扱う場面があります。いずれも時代の表現をそのまま残して公開されており、作品の一部として読むことになります。123

選んだ作品をEPUBで読む

本文リンクでまず冒頭を試し、続きを普段の読書環境で読みたくなったら図書カードからテキストZIPを入手します。青空→EPUBで変換し、生成されたEPUBをBlueReaderへアップロードしてください。サーバーでの解析後に本棚から開けます。『田舎教師』のような長編は、しおりの位置が同じアカウントで引き継がれるので、別の端末からも続きを読めます。6

操作は青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法にまとめています。三作を順番に読み切ることを目標にせず、まず一人の語り手の声を聞き終えるところから始めてください。


Footnotes

  1. 田山花袋『蒲団』、青空文庫。本文、図書カード No.1669。冒頭の場面、章立て、表記(新字新仮名)、初出「新小説」1907年9月号、備考の確認に参照。 ↩ ↩2 ↩3

  2. 田山花袋『田舎教師』、青空文庫。本文、図書カード No.1668。冒頭の場面、章立て、表記(新字新仮名)、備考の確認に参照。 ↩ ↩2 ↩3

  3. 田山花袋『重右衛門の最後』、青空文庫。本文、図書カード No.4712。冒頭の枠構造、節の数、表記(新字旧仮名)、備考の確認に参照。 ↩ ↩2 ↩3

  4. 田山花袋「『蒲団』を書いた頃」、青空文庫。本文、図書カード No.48806。関連エッセイの所在確認に参照。 ↩

  5. 田山花袋「『田舎教師』について」、青空文庫。本文、図書カード No.46594。『東京の三十年』の一部であることの確認に参照。 ↩

  6. BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩

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