戯曲を開くと、人の名前と台詞が交互に並んでいます。小説のような説明が少なく、舞台を見たことがないと読めないのでは、と感じるかもしれません。
けれど、頭の中に完璧な舞台を作る必要はありません。誰が話し、誰が聞き、話していない間に何をしているか。それを追うだけで読み始められます。
この記事では菊池寛『父帰る』と泉鏡花『夜叉ヶ池』の冒頭を入口に、戯曲の読み方を紹介します。結末や、上演の正解は説明しません。12
最初に見るのは、台詞より前の情報
| 紙面にあるもの | 最初の読み方 |
|---|---|
| 人物一覧 | 名前の読みより先に、家族や役割の関係を見る |
| 時・所・情景 | 誰が同じ空間にいるのか、ざっくり想像する |
| 台詞の前の名前 | 今、どの人の言葉なのかを確かめる |
| 台詞以外の説明 | 動作、沈黙、出入りの変化を拾う |
舞台での動きや情景などを示す、台詞以外の説明を「ト書き」と呼びます。今回の二作品でも、ト書きが場面をつかむ手がかりになります。12
家具の位置や人物の服まで覚える必要はありません。話し手が替わったときに迷わない程度で十分です。
『父帰る』同じ家族でも、同じ過去を生きているのか
『父帰る』の最初には、父母と三人の子どもの人物一覧があり、暮らす部屋の様子が示されます。会話は妹の縁談や家のお金、家族が重ねた苦労へつながっていきます。1
まず賢一郎と母の会話を読んでみてください。同じ人物について話していても、その言葉を聞いたときの反応は同じではありません。話を続けたい側と話題を変えたい側の違いにも注目してください。
家族だから分かり合えるはずだ、と先に決めてかからないほうが、沈黙や言い直しに気づきやすくなります。
沈黙を、空白ではなく読む
小説なら地の文で説明されそうな気持ちを、戯曲では短い動作や、言葉が出てこない瞬間から想像することがあります。
声に出して読める場所なら、台詞を一つ読んで、ト書きの動作の時間だけ少し止まってみてください。速く続けたときと、ためらいを置いたときで、相手との距離がどう変わるでしょうか。
上演を再現するためではありません。読む速度を変えて、言葉と言葉の間も読書に含めるための試みです。
『夜叉ヶ池』音と場所から、世界を広げる
『夜叉ヶ池』には、鐘楼を守る萩原晃、百合、山沢学円などの人物が登場します。冒頭は鐘や水をめぐる情景から始まり、人物たちの言葉を通じて、この場所を取り巻く世界が見えてきます。2
『父帰る』で家の一室を想像したあとなら、今度は目に見えるものだけでなく、聞こえる音や舞台の外にある場所へ注意を広げてください。台詞が届く距離、聞き手が知っていることの違いも読みどころになります。
小説と同じ速さで全部を理解しようとせず、まず一つの場面で、誰がいて誰がやって来たかを追います。泉鏡花の言葉に慣れない日は、そこで区切っても構いません。
『夜叉ヶ池』を青空文庫で読む / 図書カード・本文・配布情報
二作品で試せる、三回の読み方
一回目は、話者だけを追います。名前を見失ったら人物一覧へ戻ります。どの台詞に返事をしているかが分かれば、細部をすべてつかめなくても会話を読み進められます。
二回目は、動作や出入りを拾います。誰が座ったのか、何を見たのか、いつ話題が変わったのか。見落としていた説明を加えると、同じ台詞の印象も変わることがあります。
三回目は、一人の人物に注目します。その人が黙っている間に何を聞いていたかを想像します。ただし、本文にない気持ちを確定した事実として扱わず、一つの解釈にとどめてください。
三回すべてでなくても、気になった一場面だけで十分です。
戯曲をEPUBで読むときの確認点
人物名と台詞、ト書きの区別が見えるかを、最初のページで確かめてください。文字を大きくしたときに改行が変わっても、誰の言葉かを見失わない表示を選びます。
青空文庫からはテキストZIPを入手し、青空→EPUBで変換してBlueReaderへ追加できます。EPUBのアップロードとサーバー解析が必要です。読み上げや自動配役の機能はありません。3
舞台を見たことがあるかどうかは問題ではありません。一つの言葉が別の人へどう届くか。そのやりとりに目を向けるところから、戯曲を読んでみてください。
次の読書につながる記事
Footnotes
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菊池寛『父帰る』、青空文庫。本文、図書カード No.502。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2 ↩3
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泉鏡花『夜叉ヶ池』、青空文庫。本文、図書カード No.3407。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2 ↩3
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BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩