青空文庫を開いてみたものの、作品がたくさんあって最初の一冊を決められない。有名な題名は知っていても、どんな話なのか、自分に合うのかまでは分からない。そんなときの手がかりとして、長い期間のアクセスランキングを調べました。
対象は、青空文庫が公開している2009〜2022年の年間テキスト版ランキング14年分です。各年のトップ10を作品名と著者名で照合すると、すべての年に登場する作品は次の6作品でした。
『こころ』『人間失格』『吾輩は猫である』『ドグラ・マグラ』『銀河鉄道の夜』『坊っちゃん』の6作品です。各年の順位と出典は、この記事の後半に載せています。1
最新のランキングではなく、2009〜2022年の公開データをもとにした選び方です。人気の理由は決めつけず、それぞれの読みどころを紹介します。今の気分に合う一冊を探してください。
最初の一冊は、読みたい雰囲気で選ぶ
6作品を順位どおりに読む必要はありません。以下の表は作品本文をもとにした編集部の提案で、アクセス数から読みやすさを点数化したものではありません。
| こんな読書をしたいとき | 候補になる作品 | 選ぶときのポイント |
|---|---|---|
| 歯切れのよい語りで物語を楽しみたい | 『坊っちゃん』 | 主人公の勢いと、周囲の人物とのやりとりを楽しむ |
| 幻想的な風景に浸りたい | 『銀河鉄道の夜』 | 答えを急がず、場面や言葉の響きを味わう |
| 皮肉のきいた人間観察を読みたい | 『吾輩は猫である』 | 事件の結末より、猫の観察や会話を楽しむ |
| 人と人との距離をじっくり考えたい | 『こころ』 | 「私」と「先生」の関係を追う |
| 人物の内面を深く読んでみたい | 『人間失格』 | 内省的で重い語りに向き合う |
| 正体の分からない不安や謎に入り込みたい | 『ドグラ・マグラ』 | すぐに全体像がつかめない語りを楽しむ |
長く上位に入っていることと、誰にでも読みやすいことは別です。気になった作品の冒頭を開き、先を読みたくなるかどうかで決めるのが確実です。
『こころ』「先生」を知りたくなる物語
著者:夏目漱石
若い「私」は鎌倉である人物と出会い、その人を先生と呼ぶようになります。物語は、その人との関係を振り返る語りから始まります。親しくなりたい相手なのに、簡単には近づけない。その距離が気になる入り口です。2
会話では、何を言ったかと同じくらい、何を言わずにいるかが大切です。「先生はどんな人なのだろう」という疑問を抱えたまま、語り手と一緒に少しずつ近づいていきます。
結末まで分かるあらすじは読まずに、「上 先生と私」の冒頭から始めてください。人間関係をじっくり追いたいときに向く作品です。
『人間失格』他人とうまくつながれない感覚を読む
著者:太宰治
冒頭では、ある男を写した三枚の写真について語られます。そのあとに続く手記では、他人の生活や気持ちが分からず、不安を抱えながら人を笑わせようとする人物の内面が語られていきます。3
外から見える表情と、本人が抱えている感覚は、どれほど違うのか。その視点で読むと、人物の言葉の一つひとつが引っかかってきます。作者本人の記録と重ねる前に、まずは小説の語りとして受け止めてください。
明るい話よりも、孤独や自己否定をめぐる重い語りに向き合いたいときに向く一冊です。一気に読み切る必要はありません。
『吾輩は猫である』猫の目を借りて、人間を見る
著者:夏目漱石
語り手は、まだ名前のない猫。教師である主人の家に住みつき、人間の暮らしやふるまいを眺めます。主人が自分をどう見せているかと、猫が実際に見ている姿とのずれが、早い段階から顔を出します。4
猫のかわいらしい日常を期待するより、観察の鋭さや皮肉を楽しむつもりで読むほうが合っています。人間には当たり前の習慣も、猫から見れば妙なものです。
読む前のひとこと:冒頭が有名なので短い話を想像しがちですが、長い作品です。まず最初の章で、猫の語り口が好みに合うかを確かめてください。
『吾輩は猫である』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
『ドグラ・マグラ』自分が誰なのか分からない、という始まり
著者:夢野久作
目を覚ました男は、見知らぬ部屋にいます。窓や寝台、着ているものを確かめても、自分が何者なのか思い出せません。読者にも十分な説明が与えられないまま、男と一緒に手がかりを探すところから物語が始まります。5
すぐに安心できる説明が欲しい気分のときには向きません。分からないことが増えていく感覚や、語りの不穏さそのものを面白がれるときに選んでください。
「有名だから」という理由だけで最初の一冊にするより、少し手ごわい作品に挑みたいときに向きます。冒頭の不穏な雰囲気に引かれたら、先へ進んでください。
『ドグラ・マグラ』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
『銀河鉄道の夜』星の間を走る旅を、言葉で味わう
著者:宮沢賢治
学校で銀河について問われても、うまく答えられないジョバンニ。物語は、彼の暮らしや友人カムパネルラとの距離を描きながら、二人が銀河鉄道で旅する幻想的な世界へ進んでいきます。67
風景や光、音を思い浮かべながら読むのがこの作品の楽しみ方です。言葉の意味をすぐに決めつけず、気になった場面を心に留めて進んでください。
青空文庫には、底本や文字遣いの異なる同名の版があります。下のリンク先は、新字新仮名で、新潮文庫を底本とする図書カードNo.456です。ほかの版が誤りなのではなく、読み始める版の一例として選んでいます。図書カードにも版の違いについての案内があります。7
『銀河鉄道の夜』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
『坊っちゃん』歯切れのよい語りから入りたいなら
著者:夏目漱石
無鉄砲な子ども時代を語る主人公は、やがて四国の中学校で数学を教えることになります。思ったことを勢いよく口にするような語り方が、読み始めから印象に残る作品です。8
人物の言動を、主人公はどう受け取るのか。その受け取り方にうなずいたり、首をかしげたりしながら読むと、出来事の筋とは別の面白さがあります。最初の一冊を決めかねているなら、この語り口から試すのがおすすめです。
読む前のひとこと:古い言い回しを全部知らなくても、勢いよく読めます。冒頭で調子をつかみ、気になる語句は必要なときに調べてください。
『坊っちゃん』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
本当に14年すべてでトップ10?各年の順位を確認する
以下は、2009〜2022年の年間テキスト版ランキングで公表されている順位です。数字は「位」を表します。年のリンクから、それぞれの公式ランキングを確認できます。
| 年・出典 | こころ | 人間失格 | 吾輩は猫である | ドグラ・マグラ | 銀河鉄道の夜 | 坊っちゃん |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2009 | 4 | 3 | 5 | 1 | 8 | 6 |
| 2010 | 10 | 2 | 8 | 7 | 9 | 1 |
| 2011 | 3 | 1 | 5 | 4 | 7 | 2 |
| 2012 | 1 | 2 | 3 | 5 | 6 | 4 |
| 2013 | 1 | 3 | 2 | 7 | 6 | 5 |
| 2014 | 1 | 3 | 2 | 4 | 8 | 5 |
| 2015 | 1 | 2 | 3 | 4 | 6 | 5 |
| 2016 | 2 | 4 | 1 | 7 | 9 | 3 |
| 2017 | 1 | 3 | 2 | 7 | 4 | 5 |
| 2018 | 1 | 2 | 3 | 7 | 4 | 6 |
| 2019 | 2 | 1 | 5 | 6 | 4 | 7 |
| 2020 | 1 | 2 | 4 | 7 | 5 | 6 |
| 2021 | 1 | 2 | 3 | 5 | 6 | 7 |
| 2022 | 1 | 2 | 3 | 4 | 6 | 8 |
同じ顔ぶれでも、毎年同じ順位ではありません。たとえば2010年の『こころ』は10位で、『坊っちゃん』は1位でした。2022年にはそれぞれ1位と8位になっています。今回の選定では、両端の年だけでなく、途中の年も含めてトップ10入りを確認しました。
この集計で分かること・分からないこと
集計したのは、各年の上位10項目に同じ作品名と著者名の組み合わせがあるかどうかです。作品本文の版やファイルの更新履歴を14年間追跡した結果ではありません。同名の別版があってもアクセス数を足し合わせず、公式に掲載された順位を使っています。
また、これは作品ファイルへのアクセスランキングです。青空文庫は、同じIPアドレスから同じファイルへのアクセスを24時間ごとに1回と数えると説明しています。読者の人数、読了した人数、検索回数、文学的な評価を示す数字ではありません。1
公式一覧には、2010年10月6〜24日分のデータを欠くという注記もあります。この記事では公表された通年順位をそのまま参照し、欠測分を推定して補ってはいません。後から公開された作品も同じ14年間の条件では選ばれにくいため、今回の6作品に入っていないことを、不人気の証拠とは考えないでください。1
気になる作品が決まったら、まず冒頭を読んでみる
各作品にある「青空文庫で読む」リンクから、ブラウザで本文を開けます。図書カードでは、底本や文字遣い、テキスト版などのダウンロード方法も確認できます。9
同じ「名作」でも、語りの勢いや雰囲気は違います。選んだ本を最後まで読まなければと気負わず、冒頭で相性を確かめてください。気になる作品が二つあるなら、両方を少しずつ読んでから決めればいいのです。
作品には古い語句や、現在とは異なる価値観・表現が出てくることがあります。図書カードに注意書きがある場合は、そちらも確認してください。
EPUBにして、BlueReaderで読みたい場合
PCとスマートフォンで同じ本を続けて読みたい場合は、作品のテキストZIPをEPUBに変換して、BlueReaderへ追加してください。BlueReaderは、同じアカウントで読書位置を端末間同期できるリーダーです。10
流れは、青空文庫でテキストZIPを入手 →「青空→EPUB」で変換 → 生成したEPUBをBlueReaderへアップロード → サーバー解析後に読む、です。変換先には、青空→EPUBを使います。変換したEPUBは手元にも保管してください。
操作の詳細は、青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法にまとめています。まず一作品で試し、本文やルビの表示を確認してから読み始めてください。
ランキングは、一冊を選ぶきっかけに
今回の6作品は、2009〜2022年の年間テキスト版トップ10に毎年登場していた作品です。ただし、同じ読み味の本が集まっているわけではありません。
語りの勢いを試すなら『坊っちゃん』、幻想的な場面に浸るなら『銀河鉄道の夜』、人と人との距離を追うなら『こころ』。ほかの作品も、紹介を読んで気になったものから開いてみてください。
長年上位にあったから読むべき、というわけではありません。まだ読んでいなかった一冊を見つけるきっかけとして、ランキングを使ってください。
Footnotes
-
青空文庫「アクセスランキング」。2009〜2022年の通年・テキスト版を参照。各年の出典は順位表の年リンクに記載。選出・表の作成はBlueReaderの記事編集のために行ったもので、青空文庫による「おすすめ6選」ではありません。 ↩ ↩2 ↩3
-
青空文庫「図書カード:銀河鉄道の夜(No.456)」。作品の設定、文字遣い、底本、別版との違いに関する案内。 ↩ ↩2
-
青空文庫「ファイルのダウンロード方法、解凍方法」と、本文中にリンクした各作品の図書カード。 ↩
-
BlueReader公式サイトおよび青空文庫のEPUB変換ガイド。アップロード、サーバー解析、端末間同期、元ファイルの保管については既存ガイドを参照。 ↩