桃から生まれた男の子が、犬、猿、雉を連れて鬼ヶ島へ向かう。『桃太郎』は知っているつもりでも、誰が書いた文章を読んだかまで覚えているでしょうか。
今回は、青空文庫にある楠山正雄と芥川竜之介の二つの『桃太郎』を読み比べます。同じ作品の版違いではなく、書き手の異なる二作品です。12
前半は、まだ読んでいない方向けの案内です。具体的な違いは後半に分けました。二つの本文を先に読んでから、比較に戻ってきてください。
まずは、楠山正雄の『桃太郎』から
楠山版は、おじいさんとおばあさんの暮らし、川に流れてくる桃、二人の驚きへと進みます。呼びかけや音の繰り返しを追っていると、誰かがそばで話してくれているように読める冒頭です。1
一作目では、自分の記憶とどこが同じで、どこが違うかを確かめます。知っている話でも筋を先取りせず、登場人物が実際に何と言っているかを追ってください。
楠山版を昔話の唯一の「原典」とみなしているわけではありません。比較する文章の一つとして選んでいます。
次に、芥川竜之介の『桃太郎』を開く
芥川版は、深い山の奥の大きな桃の木から語り始めます。おばあさんが桃を拾う場面より前へ、視点がさかのぼる入り方です。2
「何を批判しているのか」と最初から解釈を決めず、語り手が何を詳しく話し、何を省いているかに注意してください。題名を知っている読者に向けた文章として読むと、説明しない部分にも目が向きます。
どちらにも戦いや暴力を含む場面があります。昔話の題名でも幼い子に向くとは限らないので、子どもと読む場合は先に本文を確認してください。
ここからは読後向け:二つの違いを比べる
以下では、冒頭だけでなく旅立ちや仲間とのやりとりにも触れます。先入観なしで読みたい方は、本文を先にお読みください。
1. 何を、どこから説明しているか
楠山版では、桃を持ち帰ってから二人が驚き、子どもを迎えるまでが会話を交えて語られます。芥川版では、桃の木の由来を語ったあと、人に拾われるくだりで、読者がすでに話を知っていることを前提に先へ進みます。12
読み比べる問いは、「どちらが詳しいか」だけではありません。自分が十分知っていると思っていた場面を省かれると、どんな効果があるでしょうか。反対に、知っている筋を丁寧な会話で読んだとき、誰の気持ちに近づいたでしょうか。
2. 主人公が出かける理由を、どう受け取ったか
桃太郎が鬼ヶ島へ向かうことを、二作品の語り手は同じ調子では説明しません。とくに芥川版では、主人公の動機に、読者が記憶している勇ましいイメージとは違う説明が置かれています。2
「桃太郎だから立派なことをするはず」と先に考えたかどうか、自分の読み方も振り返ってください。題名から持ち込んだ期待と、実際に書かれていたことを分ける練習になります。
3. 仲間になる場面は、気持ちの話か、条件の話か
犬などが加わる場面で、何を渡し、何を約束しているでしょうか。芥川版では、黍団子をめぐる交渉が細かく書かれています。2
筋を覚えているだけなら一言で済ませそうな場面ですが、会話を追うと人物関係の印象が変わります。助け合いとして読んだのか、取引として読んだのか。その受け取り方を支える言葉を、それぞれの本文で一つ探してみてください。
4. 誰に近い位置から読んでいたか
読み終えたあと、主人公と一緒に進んだ感覚が強かったのか、それとも少し離れた位置から見ていたのかを比べます。これは答えの決まった設問ではありません。
同じ登場人物や道具が出てきても、語り手の説明が変われば、読者の立つ場所も変わります。好きなほうを選んで終わりにせず、その違いを自分の言葉にしてみてください。
読書メモは、三行あればよい
長い感想を書く必要はありません。たとえば、こんな形なら残せます。
記憶していた『桃太郎』と違ったこと:____。
二作品で受け取り方が変わった場面:____。
もう一度読み直したい会話:____。
これは本文の引用ではなく、メモの書式です。比べるうちに、自分の記憶がいくつもの読み聞かせや絵本の混ざったものだと気づくかもしれません。思い出せる範囲で書けば十分です。
二つをEPUBにするなら、著者を取り違えない
題名が同じなので、ダウンロード元の図書カード番号を必ず確認してください。楠山正雄はNo.18376、芥川竜之介はNo.100です。12
それぞれのテキストZIPを青空→EPUBで変換し、できたEPUBをBlueReaderへアップロードします。サーバーでの解析後に開き、著者や冒頭を確かめてから読んでください。読み比べが終わっても、元ファイルは手元に残しておきます。3
芥川の短編をもっと読みたくなったら、芥川龍之介のおすすめ作品へ。別の短い物語を一作だけ探すなら、短編7選から選べます。