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EPUB READING GUIDE

小林多喜二は何から読む?『蟹工船』『党生活者』『一九二八年三月十五日』の入り方

小林多喜二の『蟹工船』『党生活者』『一九二八年三月十五日』を青空文庫で読むための案内。章の数と語りの形、方言とカタカナ表記、伏字と削除箇所、『一九二八年三月十五日』が旧字旧仮名のファイルしかない点、暴力や拷問の場面への注意をまとめ、本文と図書カードへ案内します。

小林多喜二の名前は『蟹工船』と一緒に覚えている。でも開いてみると、最初のページから方言の会話と船の用語が並び、誰が誰なのか分からないまま読み進めることになります。主人公の名前を探しても見つからず、ここで止まってしまう人が少なくありません。

この記事では、青空文庫で読める三作、『蟹工船』『党生活者』『一九二八年三月十五日』を取り上げます。思想や歴史の解説ではなく、それぞれの作品がどう区切られているか、語り手は誰か、画面上でどんな表記に出会うかを書きます。『一九二八年三月十五日』は旧字旧仮名のファイルしかないので、その読み方にも一節を割きます。暴力や拷問の場面を含む作品なので、どこにそれが現れるかも先に書いておきます。結末には触れません。123

三作のどれから開くか

読みたいもの最初の候補はじめに注目すること
名前のない集団が動く話蟹工船「漁夫」「雑夫」「監督」という呼び方
一人の語り手の一日を追う話党生活者「私」が一日に何人と会うか
一つの夜を複数の家から見る話一九二八年三月十五日章ごとに変わる人物
新字新仮名で読みたい蟹工船、党生活者図書カードの「文字遣い種別」

『蟹工船』と『党生活者』は新字新仮名、『一九二八年三月十五日』は旧字旧仮名です。初めて読むなら、字体の負担が少ない『蟹工船』から入るのが無理のない順です。発表順は『一九二八年三月十五日』、『蟹工船』、『党生活者』で、この順に読むと、集団の描写から一人の語り手へと書き方が移っていくのが分かります。123

1. 『蟹工船』名前のない人々と、十の章

『蟹工船』は一から十までの章に分かれ、本文のあとに短い「附記」が付いています。初出は雑誌「戦旗」の1929年5月号と6月号です。「おい地獄さ行ぐんだで」と呼びかける一言から始まり、函館の港に停まった蟹工船博光丸の中を、デッキから船底へと見ていきます。1

この作品には、主人公と呼べる個人がほとんど出てきません。登場するのは「漁夫」「雑夫」「監督」「船長」といった役割の名前で、個人は「赤い臼のような頭をした漁夫」のように見た目で区別されます。最初の章で雑夫のいる船底を覗く場面があり、そこにいるのは十四、五の少年ばかりだと書かれています。名前を追うのではなく、どの役割の人が船のどこにいるかを押さえるのが、この小説の入口です。

会話は東北や北海道の言い回しで書かれ、「んだべよ」「見れ、見れ」のように、標準語に直さず読む必要があります。分からない語があっても、前後の動作で意味は取れます。一章ずつ読み、章の終わりで「船はどこにいるか」「誰が怒っているか」の二つだけ確かめる、というペースが取りやすい構成です。二章は祝津の灯台の光から始まり、船が函館を離れていきます。

『蟹工船』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

2. 『党生活者』「私」の一日を、約束の時刻で追う

『党生活者』は一から九までの章に分かれ、最後に「前編おわり」と記され、一九三二年八月二十五日の日付と、蔵原惟人に捧げる作者附記で終わります。図書カードの解説によれば、作者の死の前年に書かれた作品で、軍需工場に臨時工として入り込み、非合法の活動を続ける人々の日々が描かれます。2

語り手は「私」で、工場の洗面所で手を洗っている場面から始まります。同僚の須山が声をかけ、二人は一緒に帰らない約束をしていること、「ヒゲ」と呼ばれる仲間が約束の場所に来なかったことが、最初の数ページで分かります。『蟹工船』とは逆に、この作品は時刻の小説です。七時、七時二十分、八時半、九時と、誰といつ会うかが細かく書かれ、「私」はその合間に原稿を書き、下宿の人に挨拶をします。

読み方としては、章ごとに「私」が会った人と場所を書き出すと、人の出入りが追えます。工場の描写には、女工の賃金が一時間いくらで、一銭銅貨を何枚並べて払われるか、といった数字が多く出てきます。会話にはカタカナ書きの語が混じり、「ジレ/\」のように、繰り返しを表す記号(くの字点)が「/\」で表されています。最初は見慣れませんが、直前の字をもう一度読むだけです。

『党生活者』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

3. 『一九二八年三月十五日』一つの夜を、家ごとに見る

題名の日付の夜に起きた一斉検挙を、組合の人々とその家族の側から描いた作品です。一から九までの章に分かれ、初出は雑誌「戰旗」の1928年11月号(一から四)と12月号(五から九)です。一章は、組合の人々が集まる家の妻お惠の目から始まり、夫の龍吉や組合の人々との付き合いが描かれます。二章で午前三時、凍った雪道に警官の足音が起こり、以後は章ごとに別の家、別の人物へ視点が移ります。五章からは舞台が警察署に移ります。3

本文には「××」の伏字と、「(以下二十四字削除)」のような削除の注記がそのまま残っています。青空文庫のファイルは初出誌の「戰旗」を底本にしているので、当時の雑誌に印刷された形がそのまま再現されています。文字が消えている箇所は、意味を推測して埋めなくても、前後の文で何が起きたかは分かります。削除の注記は九箇所あり、後半の警察署の章に集まっています。

読み方としては、章の頭で「今、誰の家にいるか」を確かめてください。人物は一章ごとに入れ替わりますが、前の章の人物が別の章で警察署に現れるので、名前を一つずつ覚えておくと、後半でつながります。

『一九二八年三月十五日』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

『一九二八年三月十五日』は旧字旧仮名しかない。どう付き合うか

青空文庫の『一九二八年三月十五日』は、字体も仮名遣いも旧いままで、新字のファイルはありません。「聲」は声、「氣」は気、「體」は体、「惠」は恵です。仮名は「さう」「ゐる」「だつた」のように旧い書き方で、くの字点も「/\」で表されています。3

旧字といっても、小説の場面は会話が多く、同じ字が繰り返し出てきます。人名の「お惠」、よく出る「聲」「氣」「身體」の三つを先に覚えてしまえば、本文で引っかかる字はかなり減ります。読めない字があっても、会話の流れで誰が何をしたかは追えます。

新字と旧字、新仮名と旧仮名の区別そのものが分からないときは、青空文庫の「新字新仮名」と「旧字旧仮名」の見分け方で、図書カードの表記の読み方を確認してください。この作品では選べる版がないので、表記を理由に読むのをやめるより、『蟹工船』『党生活者』で多喜二の文の調子に慣れてから戻るほうが近道です。

読む前に知っておきたい内容上の注意

『蟹工船』には、監督が漁夫や雑夫を殴る場面と、過労や病気で人が死ぬ場面があります。『一九二八年三月十五日』の後半は警察署での取り調べが中心で、竹刀や鉄棒で殴られる拷問の場面が、伏字と削除を挟みながら書かれています。『党生活者』には直接の暴力場面は少ないものの、尾行や張り込み、仲間の逮捕が日常として描かれます。123

図書カードには、『蟹工船』『一九二八年三月十五日』ともに「今日からみれば、不適切と受け取られる可能性のある表現がみられます」という青空文庫の備考が付いています。当時の国名や人の呼び方、病気や身体に関する言い方がそのまま残っているためです。いずれも出来事として描かれるもので、作者が読者に向けて言い換えているわけではありません。

一作をEPUBに変換して、章ごとに読む

本文リンクで最初の章を試し、続きを手元で読みたくなったら、図書カードからテキストZIPを入手します。青空→EPUBで変換し、生成されたEPUBをBlueReaderへアップロードしてください。サーバーでの解析後に本棚から開けます。三作とも章の区切りがはっきりしているので、一章を一回分として読み進めやすい作品です。4

手順は青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法にまとめています。同じアカウントなら端末を変えても続きを開けるので、一章読んで閉じ、翌日に別の端末で次の章へ進めます。長さの見積もりは、本文の長さと自分のペースで読書時間を考える記事の方法がそのまま使えます。


Footnotes

  1. 小林多喜二『蟹工船』、青空文庫。本文、図書カード No.1465。新字新仮名。初出「戦旗」1929年5月、6月号。十章と附記の構成、冒頭の場面、図書カードの備考を参照。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. 小林多喜二『党生活者』、青空文庫。本文、図書カード No.833。新字新仮名。九章の構成、末尾の日付と作者附記、図書カードの解説を参照。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. 小林多喜二『一九二八年三月十五日』、青空文庫。本文、図書カード No.49394。旧字旧仮名。初出「戰旗」1928年11月号(一から四)、12月号(五から九)。九章の構成、伏字と削除注記、図書カードの備考を参照。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  4. BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩

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