萩原朔太郎の「竹」は読んだことがある。でも詩集を一冊開くとなると、どの順番で、どこまで読めばよいのか分からない。詩集には小説のような筋がないので、途中で止めてよいのか、止めたら読んだことにならないのか、判断がつきにくいものです。
この記事では、青空文庫で読める二つの詩集、『月に吠える』と『青猫』を取り上げます。詩の意味を解説するのではなく、序文や例言をどう使うか、最初の数篇で何を見るか、画面上で行やルビがどう見えるかを書きます。『青猫』は青空文庫では旧字旧仮名のファイルしかないので、その読み方にも一節を割きます。12
二冊のどちらから開くか
| 読みたいもの | 最初の候補 | はじめに注目すること |
|---|---|---|
| 短い行で像が立ち上がる詩 | 月に吠える | 行ごとの切れ目と、繰り返される語 |
| 長い行がゆっくり流れる詩 | 青猫 | 一行の長さと、終わりの句点の有無 |
| 作者自身による詩の説明 | 月に吠える | 二つの序と「詩集例言」 |
| 旧字体に慣れる練習 | 青猫 | 寢臺、靈魂、都會などの字 |
『月に吠える』のファイルは新字旧仮名、『青猫』は旧字旧仮名です。初めて朔太郎を読むなら、字体の負担が少ない『月に吠える』から始めるのが無理のない順です。『青猫』の「凡例」には、第一詩集を出してから六年ほど経って編んだ本だと書かれているので、刊行の順でもこの並びになります。12
1. 『月に吠える』まず二つの序と例言で、本の輪郭を知る
詩集の冒頭に、北原白秋による序と、作者自身の序が並んでいます。白秋の序は「萩原君。」と呼びかける手紙のような文章で、大正六年一月の日付と署名があります。作者の序は、詩の目的は情調や幻覚を描くことではなく、感情そのものの本質を見つめることだと述べ、題名の由来を犬の遠吠えで説明して終わります。1
その次の「詩集例言」には、過去三年の九十余篇から叙情詩五十五篇と長篇詩二篇を選び、雑誌「地上巡礼」「詩歌」などに載せたものを中心に収めたと書かれています。さらに「再版の序」では、初版が大正六年に自費で五百部ほど刷られ、その年のうちに売り切れたことが語られます。
詩を読む前にこの四つの文章を読んでおくと、どんな人がどんな気持ちで一冊にまとめたのかが分かり、知らない詩が出てきても置き場所ができます。全部で数ページなので、ここだけ読んで今日は閉じる、という始め方でも構いません。
2. 『月に吠える』最初の数篇で、行の形と繰り返しを見る
序のあと、最初の章は「竹とその哀傷」です。一篇目の「地面の底の病気の顔」は、地面の底に顔があらわれ、草の茎が萌えそめる、と短い行で続きます。次が「草の茎」、そして「竹」が二篇続けて置かれています。有名な「光る地面に竹が生え」で始まる一篇は、二篇目のほうです。1
画面では、一行が一つの文のまとまりとして表示され、行のあいだが空きます。読みどころは、行末で何度も同じ語尾が返ってくる点です。「生え」「萌えそめ」のような語が行を変えながら繰り返されるので、意味を取る前に、この反復を音として追ってみてください。ルビはごく少なく、「竹」の二篇にはほとんど付いていません。
章の名前は「竹とその哀傷」「雲雀料理」「悲しい月夜」「くさつた蛤」「さびしい情慾」「見知らぬ犬」「孤独」と続き、「長詩二篇」の章のあと、室生犀星による跋文「健康の都市」と、画家の田中恭吉について書いた散文で終わります。最初の章だけで十篇ほどなので、一回に一章を読み、気になった一篇に戻る、というペースが取りやすい構成です。章によって調子が変わるので、一つの章が合わなくても次の章を試してください。
『月に吠える』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード
3. 『青猫』序と凡例を読み、長い行に慣れる
『青猫』も序と「凡例」から始まります。序では、自分の情緒は激情ではなく、春の夜に聴く横笛の響きのようなものだと語られます。凡例には、六年のあいだに書いた詩を「幻の寢臺」「憂鬱なる櫻」「さびしい青猫」「閑雅な食慾」「意志と無明」「艶めける靈魂」の六章に分け、最初の二章は書いた順、それ以降は内容の種類で並べたと書かれています。巻末には「自由詩のリズムに就て」という詩論が付録として置かれています。2
最初の詩は「薄暮の部屋」で、つかれた心臓は夜をよく眠る、という一行から始まり、蝿の羽音を「ぶむ ぶむ」と繰り返す行が二度置かれます。表題作「青猫」は「この美しい都會を愛するのはよいことだ」と始まり、一行がそのまま一つの文になっています。
『月に吠える』と比べて一行が長く、句点は連の終わりに置かれることが多いので、途中の行は句点なしで次の行へ流れていきます。短い行の切れ味ではなく、行から行へ同じ言い回しが少しずつ形を変えて流れる感じが読みどころです。読み方としては、一篇を声に出さなくても、行の終わりで息を継ぐつもりで読むと、長い行の中の区切りが見えてきます。
4. 『青猫』は旧字旧仮名しかない。どう付き合うか
青空文庫の『青猫』は、底本が筑摩書房の全集で、字体も仮名遣いも旧いままです。「寢臺」は寝台、「靈魂」は霊魂、「都會」は都会、「櫻」は桜です。別に「定本青猫」というファイルもありますが、こちらも旧字旧仮名で、新字のファイルはありません。2
旧字といっても、詩の一行は短く、同じ字が繰り返し出てきます。章名に使われている「寢臺」「櫻」「靈魂」の三つを先に覚えてしまえば、本文で引っかかる字はかなり減ります。読めない字があっても、前後の行で同じ像が繰り返されることが多いので、一度飛ばして次の行へ進んでも、流れは追えます。
新字と旧字、新仮名と旧仮名の区別そのものが分からないときは、青空文庫の「新字新仮名」と「旧字旧仮名」の見分け方で、図書カードの表記の読み方を確認してください。『青猫』では選べる版がないので、表記を理由に読むのをやめるより、『月に吠える』で朔太郎の行の調子に慣れてから戻るほうが近道です。
読む前に知っておきたい内容上の注意
『月に吠える』には「殺人事件」「天上縊死」「酒精中毒者の死」「死」「蛙の死」といった題の詩があり、死や自殺、病気の像が繰り返し現れます。作者の序も、過去を病んだ心の悪夢として語っています。1
『青猫』にも「艶めかしい墓場」「くづれる肉體」「五月の死びと」など、死体や肉体の崩れを題にした詩があり、序で作者自身が「官能的」と評されたことに触れている情緒を扱う章もあります。いずれも像として描かれるもので、出来事の説明ではありませんが、題名で苦手な領域が分かる場合は、その詩を飛ばして章を読み進めても差し支えありません。2
詩集をEPUBに変換して、一章ずつ読む
本文リンクで序と最初の数篇を試し、続きを手元で読みたくなったら、図書カードからテキストZIPを入手します。青空→EPUBで変換し、生成されたEPUBをBlueReaderへアップロードしてください。サーバーでの解析後に本棚から開けます。詩は一行が短いものも長いものもあるので、文字サイズを少し大きくして、一行がどこで折り返すかを確かめながら読むと、行の形が見やすくなります。3
手順は青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法にまとめています。同じアカウントなら端末を変えても続きを開けるので、一章読んで閉じ、翌日に別の端末で次の章へ進めます。
詩集を一冊読む前に、一篇ずつ試したい人は詩を読まない人のための青空文庫7篇で「竹」と「旅上」を単独の図書カードから読めます。詩より短歌のほうが入りやすいと感じるなら、同じ三行や短い行を手がかりにできる石川啄木の入門記事もあります。
Footnotes
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萩原朔太郎『月に吠える』、青空文庫。本文、図書カード No.859。新字旧仮名。北原白秋の序、作者の序、詩集例言、再版の序と章構成、最初の章の詩題を参照。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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萩原朔太郎『青猫』、青空文庫。本文、図書カード No.1768。旧字旧仮名。序、凡例の六章の説明、付録、冒頭の詩と表題作を参照。別版「定本青猫」は図書カード No.1789。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩