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EPUB READING GUIDE

有島武郎は何から読む?『一房の葡萄』『小さき者へ』『生まれいずる悩み』の選び方

有島武郎を初めて読む方へ。短い童話『一房の葡萄』、子どもへの手紙『小さき者へ』、北海道を舞台にした『生まれいずる悩み』を、長さと語りの形から選ぶ案内。青空文庫の本文と図書カードへつなぎます。

有島武郎は、教科書や児童向けの選集で『一房の葡萄』だけを読んだという方が多い作家です。その一篇が心に残っていても、次に何を読めばよいかは見当がつきにくいものです。短い童話のあとに長い小説へ進むべきか、それとも随筆に近いものがよいのか。

この記事では、青空文庫で読める三篇を取り上げます。『一房の葡萄』は子どもの一人称で語られる短い物語、『小さき者へ』は父から子どもたちへ宛てた文章、『生まれいずる悩み』は北海道で暮らす若者と作家の交流を描く中篇です。長さも語りの形も違うので、今の自分に合う入口を選べます。あらすじは冒頭の場面までにとどめ、結末や途中の転機には触れません。

三篇の違いを一覧で見る

作品語りの形長さの目安最初に注目すること
一房の葡萄「僕」が少年時代を語る短い。三つの節に分かれる欲しいものを前にした気持ちの動き
小さき者へ父が「お前たち」に書く短い。節の区切りはない誰に向けて、いつ書いているか
生まれいずる悩み作家の「私」が「君」を回想する長い。一から九の節に分かれる北海道の冬の描写と、二人の距離

三篇とも青空文庫の底本は新字新仮名づかいで、ふりがなが付いています。『生まれいずる悩み』の表題は、青空文庫では新仮名の表記が採用されています。文庫本などで『生れ出づる悩み』と書かれているものと同じ作品です。123

初出は『小さき者へ』が「新潮」、『一房の葡萄』が「赤い鳥」です。『一房の葡萄』は子ども向け雑誌に載った作品ですが、大人が読んでも短さのわりに残るものが多く、入門の一篇目として向いています。

1. 『一房の葡萄』絵具の色から始まる物語

「僕は小さい時に絵を描くことが好きでした」という一文で始まります。「僕」の学校は横浜の山の手にあり、教師は西洋人ばかりでした。通学路の海岸通りからは軍艦や商船が見え、「僕」はその景色を家で絵にしようとしますが、海の藍色と船の洋紅色がどうしても自分の絵具では出せません。1

そこで思い出すのが、同級生のジムが持つ舶来の絵具です。ジムは「僕」より二つ年上の西洋人の子で、十二色の絵具を木の箱に入れて持っています。絵はジムのほうが下手なのに、その絵具を使うと見違えるほど美しく見える。ここまでが物語の入口で、このあとの出来事は「僕」の気持ちの動きを追いながら読んでください。

読むときの手がかりは、「僕」が自分の気持ちをどこまで言葉にしているかです。欲しい、羨ましい、という気持ちは率直に書かれますが、行動に移る直前の心の動きは短い文で済まされています。その短さを、子どもの語りの正直さとして受け取るか、大人になった語り手の照れとして受け取るかで、読後の印象が変わります。題名の葡萄がどこで出てくるかも、楽しみに残しておいてください。

『一房の葡萄』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

2. 『小さき者へ』夜中に書かれた、子どもたちへの手紙

この作品は物語ではなく、父親が幼い子どもたちに向けて書いた文章です。冒頭で、お前たちが大人になったとき父の書き残したものを読む機会があるだろう、だからこれをお前たちに宛てて書く、と筆者は宣言します。続いて、お前たちは去年たった一人の母を永久に失った、と告げられます。2

ここで書かれるのは、母を失ったことの意味を、父がどう受け止めようとしているかです。悲しみだけでなく、自分たちが置かれていた境遇と、同じ病で違う境遇にあった隣人のことも並べて書かれます。読者である子どもたちは、まだこの文章を理解できない年齢です。だからこの手紙は、書いている父自身に向けた文章でもあります。

読むときは、文章のところどころに書き込まれた「いま」の時刻や、机のまわりの様子に目を留めてください。手紙がどんな夜に書かれているかが分かると、強い言葉の背後にある静けさが見えてきます。短い文章なので、一度に読み切れます。『一房の葡萄』のあとに読むと、同じ作家の声の違いがはっきり分かります。

『小さき者へ』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

3. 『生まれいずる悩み』北海道の冬と、絵を描く若者

作家である「私」が、北海道の冬の夕暮れに、窓の外の雪に埋もれていく畑を眺めながら原稿に向かっています。寒さと、暮れていく光と、吹き降ろしてくる風の描写が冒頭に置かれ、「私」はさびしさのあまり筆を止めて「君」のことを思います。3

「君」と初めて会ったのは、「私」がまだ札幌に住んでいたころでした。豊平川のそばのりんご園の中の家に、中学校の制服を着た少年が、片手では抱えきれないほどの油絵や水彩画を持って訪ねてきます。「私」は最初、この少年を高慢な若者だと思いますが、絵を一目見て驚かずにはいられません。ここから、「君」が絵と暮らしのあいだでどう生きていくかを、「私」の回想と想像が追っていきます。

この作品は、「私」が実際に見たことと、手紙や記憶をもとに想像で補ったことが混ざった形で書かれています。どこまでが見た場面で、どこからが「私」の想像なのかを意識して読むと、作家が若者に向ける感情の濃さが見えてきます。海や漁の場面は長く、描写も細かいので、一節ずつ区切って読む計画を立てるとよいでしょう。全九節のうち、第二節で「私」と「君」の出会いが語られます。

『生まれいずる悩み』を青空文庫で読む / 図書カード・ダウンロード

どの順番で読むか

短いものから長いものへ進むなら、『一房の葡萄』、『小さき者へ』、『生まれいずる悩み』の順です。この順だと、子どもの声、父の声、作家の声と、語り手の年齢が上がっていきます。

逆に、北海道や労働の場面に関心があって有島を読みたいなら、『生まれいずる悩み』から入り、休憩として短い二篇を読むのも一つの方法です。長い作品の途中で短篇を挟むと、同じ作家が持つ別の調子を確かめられて、読み疲れを防げます。

三篇とも、語り手が自分より弱い立場の相手に向けて書いている、あるいは語っているという共通点があります。子ども、幼い子どもたち、若い画家。その相手との距離の取り方が、作家の倫理観を映しています。相手に教えようとしているのか、ただそばで見ているのか、それぞれの作品で確かめてみてください。

読む前に知っておきたい内容

『小さき者へ』は、妻を病で失った直後の父親が書いた文章です。母の死、結核、貧困による医療の不足といった事柄が、具体的に書かれています。隣人の病と死の経過も語られます。『生まれいずる悩み』には、漁の労働と海の危険、貧しい暮らしと、芸術への志のあいだで苦しむ若者の姿があります。

『一房の葡萄』は子ども向けの作品ですが、子どもの過ちと、それが周囲に知られる場面が物語の中心にあります。また三篇とも百年以上前に書かれた作品で、外国人、病気、職業に関して現在とは異なる言い方が出てきます。底本どおりの表記として読んでください。

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手順は青空文庫をEPUBに変換してBlueReaderで読む方法にまとめています。『生まれいずる悩み』は長いので、読書時間の目安を知りたい方は青空文庫の作品を読む時間の目安を参考にしてください。

子ども向けに書かれた作品を大人の目で読み直す読書が気に入ったなら、新美南吉を大人が読む案内も同じ姿勢で書かれています。有島の他の作品は、青空文庫の作家ページから一覧できます。5


Footnotes

  1. 有島武郎『一房の葡萄』、青空文庫。本文、図書カード No.211。初出「赤い鳥」1920年8月。底本は新字新仮名。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2

  2. 有島武郎『小さき者へ』、青空文庫。本文、図書カード No.206。初出「新潮」1918年1月。底本は新字新仮名。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2

  3. 有島武郎『生まれいずる悩み』、青空文庫。本文、図書カード No.1111。底本は岩波文庫、新字新仮名。青空文庫での表題は「生まれいずる悩み」。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2

  4. BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩

  5. 有島武郎の作家ページ、青空文庫。公開中の作品一覧の確認に参照。 ↩

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