題名はどちらも知っているけれど、何が違うのかうまく説明できない。『羅生門』を読んだあと、似た雰囲気を期待して『藪の中』を開いてもよいのだろうか。
この二作を選び分けるなら、まず読者が何を手がかりに読む作品なのかに目を向けてください。一人の人物の考えが変わる過程を追うのか、複数の語りを照らし合わせるのか。この記事では小説二作を比較し、映画などの翻案作品とは分けて扱います。12
読む前に分かる、二作品の違い
| 比べる点 | 『羅生門』 | 『藪の中』 |
|---|---|---|
| 入口の場面 | 雨の夕方、門の下で行き場を失った下人 | 死体の発見をめぐる、木樵などの話 |
| 読み進める手がかり | 下人が何を考え、どう理由を組み立てるか | 誰が何を語り、ほかの話とどう関わるか |
| 注目する言葉 | 自分を納得させるための理屈 | 見たこと、聞いたこと、自分についての説明 |
| 初めて読むときの提案 | 場面の変化と心の動きを追う | 語り手が替わるたびに、一度立ち止まる |
優劣の比較ではなく、二作の構成をもとに読書の入口を示した表です。12
『羅生門』は、考えが変わる瞬間を読む
主人から暇を出された下人が、荒れた門の下で雨を避けています。明日の暮らしをどうするか決められず、そこで目にしたものをきっかけに、考えが動き始めます。1
読み始めは行動を善悪に分けず、「この人は今、何を理由にしているのか」を確かめてください。人はいつも、一つの信念だけに従って行動するのでしょうか。周囲の状況が変わると、同じ言葉の受け取り方も変わるのでしょうか。
雨や夕闇、建物の様子も、その考えを読む手がかりになります。出来事だけを要約すると、こうした描写は抜け落ちます。風景も飛ばさずに読んでください。
『藪の中』は、語りの境目を読む
こちらには、一人の主人公に付き添って進む語りがありません。出来事に関わる人々の話が並びます。全部を一つの説明にまとめようとせず、今語っている人が何を知り得るかを考えながら読んでください。2
たとえば、「見た」という報告と「きっとそうだった」という推測は違います。事実の説明に見える言葉に、自分をどう見てもらいたいかが混ざっていることもあります。本文の表現に戻って確かめてください。
人物名と一言だけのメモでも十分です。分からない部分を無理に埋めたり、解説サイトの結論を写したりはしないこと。読んだ時点の違和感を残しておくと、次の語りを聞きやすくなります。
どちらから読むとよい?
一つの場面の緊張を味わいたい日は『羅生門』から。複数の話を聞き比べることに興味がある日は『藪の中』から。二作品に、必ず守るべき読書順はありません。
両方読むなら、同じ日に比較を終える必要はありません。一作目では「人物の言葉をどこまで信じたか」だけを書き留め、翌日にもう一作を開く。二作目を、一作目の答え合わせとして読まないようにしてください。
どちらにも死や暴力、重い人間関係の描写があります。短編でも、軽い気分で読める作品とは限りません。
読み終えてから比べたい三つの問い
ここからは読後用の問いです。結末自体は書きませんが、まだ読んでいない方は先に本文へどうぞ。
自分が人物に近づいたと感じたのは、どこでしたか。気持ちが説明された場所なのか、説明のない行動を見た場所なのかを比べます。「共感できたか」だけでなく、距離が変わった箇所を探してください。
理由を聞いて、出来事の見え方は変わりましたか。人物の理由を理解することと、その行為に賛成することは別です。読み直すと、二つを混ぜていた箇所が見つかるかもしれません。
最後に残ったのは、答えでしたか、疑問でしたか。どちらが残ってもかまいません。未解決に感じる部分を、読み落としだと決めつけないでください。
気になった一作から、もう一度読む
比較は、二作の違いを覚えるためというより、次の読書でどこに目を向けるかを決めるために使ってください。本文をブラウザで読むなら、各リンクから始められます。
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Footnotes
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芥川竜之介『羅生門』、青空文庫。本文、図書カード No.127。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2 ↩3
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芥川竜之介『藪の中』、青空文庫。本文、図書カード No.179。作品の紹介と表記・版の確認に参照。 ↩ ↩2 ↩3
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BlueReaderの青空文庫EPUB変換ガイド。青空→EPUBによる変換、EPUBのアップロードとサーバー解析、同じアカウントでの読書継続について。 ↩